「あのさあ、羞恥心はないわけ?」
ソファーに座る俺の背後、テレビの画面を見つめる蛍さんは、なぜか仁王立ちで腕を組み裸だった。WBCが気になるあまり、風呂から出てそのままの状態で来たのだろう。 
俺の問いに蛍さんは、特にないね、と肩にかけた唯一の布、バスタオルで髪をばさばさと無造作に拭く。Gカップが揺れている。 
ショートカットにしてからドライヤーを使わなくなった蛍さんは、俺よりも風呂から上がる速度が早くなった。 
髪の毛も柔らかいからタオルドライで乾くらしい。大変羨ましい限りである。 
 
「いいじゃん、もう結婚したんだし」
その巨乳を見せびらかすように寄せてみせると、得意げににんまりと目を細めた。なるべく見ないように視線の居場所を探して、結果落として自分の爪の先で落ち着いた。不埒な視線に絶対見られた気がして、気を取り直すように口をひらく。 
 
「それはそうですけど、風呂も寝室も別なんですよ俺ら。ほら冷えるから服着る」 
「別だからなんなのさ。まあいいけど」 
 
いそいそと水色のもこもこパジャマに着替えると、どこから持って来たのか缶ビールを2本、テーブルに置いた。冷蔵庫から出してしばらく経ったのだろうか、結露がなぞるように滴っている。 
 
「日本勝ったんだね」 
「そ、蛍さんが風呂入ってる時に大谷で逃げ切った」 
 
今回は選手がみんな良かったからね、蛍さんがそう呟きながら隣に座り、ビールのプルタブを開けた。 
テレビでは狂喜乱舞する人々が映し出される。それを眺めながら2人で静かにビールを啜る、この空間との温度差に少しだけ笑ってしまった。 
吹き出した声に気づいたのか、蛍さんが怪訝そうな顔でこちらをみた。首元が大きく開いたパジャマからは彼女が若人の過ちと称する刺青が、少しはだけた左肩に見えた。 
 
「なによ」 
「いや、裸で急いで出てきた割にその程度の興味? と思いまして。裸である他意があったのかと」 
「た、他意なんてないけど。ほんとにWBC興味あったんだってば」 
 
なぜか少し口籠った蛍さんは、慌てた様子でビールを飲み干した。心なしか耳が赤い。 
思い返せば、今回に限らず謎の色仕掛け的な行動は確かに何回もあった。が、正直なところ俺の感情と蛍さんの感情が合致しているのかがわからず、毎回気づかないふりをしていた。 
ラッキースケベである可能性はあるかもしれないが、今回はその手に少し乗ってみようか。 
 
「もしかして俺がなんとも思ってないと思ってる?」 
 
空のビール缶をテーブルにゆっくり置いて、蛍さんの細い手首を掴んだ。彼女の焦茶色の瞳が揺れる。相変わらず耳どころか頬も赤い。 
いつもと違う反応と思ったのか、逃げるように視線を左に逸らした蛍さんを、じわりソファーへ押し倒した。ソファーと俺の間にすっぽりおさまってしまい、改めて身長差を思い知った。下手に力を入れたら壊れてしまいそうだ。 
太ももの間に膝を入れると、身をもぞもぞと捩った蛍さんは、俺の顔をしっかり見てぼそりつぶやく。 
 
「暗くしよう」 
 
素直じゃない奴め。 


























続き:R18 更新日付





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