「明日には郵便局角のスーパーでキャベツが3円下がるはずなんだ!」
兄がスーパーのチラシのスクラップファイルを右手に、赤鉛筆を左手に握りしめて熱意猛々しく溢れる眼差しを俺にぶつけてきた。普段は冷静な兄が熱くなるのは珍しいが、内容が内容である。
「3円じゃあんまり意味がないというか」
面倒くさいことになりそうな雰囲気だったため、どうにか切り上げてさっさとゲームを再開したいところだった。
コントローラーを握り、目をそらして背を向けた俺に対し、兄のキャベツ論争は一方的な猛攻を続ける。
「そろそろ春キャベツが旬だからね、キャベツ市場が潤うわけですよ。それで溢れた普通のキャベツがちょっと安くなる、というね。3円っていうのはここ1年の傾向と分析の結果なんだけども、やっぱりアレだね! キャベツって年中取れるから分析が難しいね。チーズとかならもうちょっと簡単なんだけども。そうだ今度最安値のピザを作ろう、想像しただけで楽しくなって来ちゃったなあ」
再開したゲームに集中できなくはないが、微妙に面白いことを言うから思わず耳を傾けてしまう。兄の楽しそうな顔が見なくても分かる。声がいつもより高いし、なにより早口だ。
たった3円、たったそれだけなのに自分の予想に確信が持てると子供のようにはしゃぐのは、良くも悪くも昔からの兄の癖だ。その癖のおかげで俺はあまり「歳が離れた兄」と思うことはあまりないのだけど。

「明日が楽しみだなぁ」
「ほんとにさがってるかねぇ」

興味なさそうに装ったが、本当は兄と同じぐらいキャベツの値段が気になっていた。
最安値のピザも協力してあげてもいい。





(ちょっと兄者、昨日と値段同じだけど?)
(うそでしょ)
(この人たちバカだ…)





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