僕らのアイドルが結婚してしまった。
アイドルと言っても学生の時に一定範囲内のこぢんまりとした世界で騒ぎ立ていたくらいの程度なもので、ものすごい可愛いけど比例してものすごい悪女だったから誰も付き合おうとは考えなかった結果の「僕らのアイドル」だ。
その騒ぎ立ていたファン層のスナップモデルをしていた性格にも非の打ち所がないイケメンが旦那だそうで、それを聞いたその他大勢の僕らは勝算など元々なかったけど、微かな可能性に掛けて突撃をしなかったことに多いに後悔や絶望、ついでに嫉妬をしている。やはり完璧なイケメンはどの世界でも優遇される。天は二物を与えずと言うけど、彼は二物側の人間だった。

結婚したという事実を突然飯に呼び出してきた友人から聞いた時の僕は「ふーんそっか」みたいに然程興味がないように振る舞ったが、帰宅してシャワーも浴びず一直線にベッドへ飛び込んで、気が付いたら一瞬で朝になっていたような6時間を越えた今、結構ショックだったのかと悟った。
「結婚しちゃったんかー」
でも別に付き合いたいほど好きじゃなかったし、あのクソサブカル女。
そんな御託を並べても過去は過去だからと、ただ虚しいだけの時間が流れていく。これは誰しも経験する一種の所有欲と思われるのだが、ラブでもライクでも好きになってしまった人間が誰かの「モノ」になってしまうと、途方もなく広い宇宙に放り出された気持ちになってしまう。歩くスピードで地球から木星に向かっているような、そんな気分である。
ベッドの上からいまだに動けずにいると、天井の木目が木星の模様に見えてきたところで我に返る。3畳半の宇宙で僕は宇宙に満たない時間を無駄にしてしまった。
何を目標に生きているか分からない僕は、敗北感という名の毛布に再び包まった。何度寝ても醒めないつまらない夢がいつか終わることを願って目を閉じる。


私たちはいつでも、ハッピーエンドを待っている。
GOOD ON THE REEL
「ハッピーエンド」
'1802






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