「おはよ、体調悪そうだけど大丈夫?」
支度を終えたゆかりが、僕の顔色を見て眉をひそめた。
最高に体力を使い果たす満月から1週間程経過、それから特に早く寝れる予定がなく、溜まった疲労はいつの間にか風邪へと悪化していた。少しかったるくて、何かを考えるのも少しダルい。
それでも学校に行かなければと、寮の玄関を目指してふらり歩き始めれば、ゆかりがもう一度大丈夫、と聞いてきた。よほど苦しく見えるのだろうか。
僕は小さな声で大丈夫、と言って寮の扉を開ける。
日差しがキツイ。辛い朝だ。


放課後、バイトだったり様々な人に会っていると、いつの間にか夜が更けている。ここ最近はそんな生活の繰り返しだった。満月の出来事があってもなくても俺は忙しくて殆ど寝ていない。
寝不足で遅刻はないものの、どうにも授業の内容が頭に入らない。意を決し、図書館で勉強をしようとするのだが、あの静寂の中で寝ないようにするのは鬼畜の所業だった。
この間、千尋にも寝不足を心配されたが、本当のところ寄り道せずに帰りたい欲求が大きいなんて、デート中に死んでも言えない。
ぶっちゃけると、寝たいのだ。


「キタローキタロー!あんた学年1位だって?」
授業の後、嵐のようなハム子が僕に突撃してきた。とても頭に響く。授業中は静かだったのに。
「あたし、魅力も勇気も有り余ってるのに勉強だけはキタローに持ってかれたのよね」
「僕はハム子と違って1週間前はタルタロスも行かないし、コミュも発展させずに家で勉強してるから」
「勉強なんて神社で願掛けしとけばいいの」
だからダメなんだよ、眠い目を擦って欠伸をした。咳も少し出る。
「体調悪いの?」
「ちょっとね、忙しくて寝れてない」
「夜に予定が多いのが悪いよ、確実に」
お前も夜遊びは大概だがな。
「昼休みぐらい寝かせて」
終わらないくだらない話に終止符を打つように机に伏せた。つまらなそうに溜息をわざとらしく大きく吐いたハム子は、放ってペルソナ合体のメモを取り出し、あーでもないこーでもないと大きい独り言を漏らし始める。独り言から察するに、彼女はどうやら最強なアリスが作りたいらしいが、頼むから僕のの近くでやらないで欲しい。
それでも構わず寝たけれど。


放課後、風花が教室の前に立っていたが真っ直ぐ寮に帰ることにした。放置しすぎてコミュがリバースする勢いだが、仕方ない。寝たいのだ。
寮の重い玄関のドアを開くと、荒垣さんがコロマルと戯れてる所だった。俺はただいま、と言うと荒垣さんは今日は早ぇな、と驚いた顔をする。
「最近眠いので」
「まあ、寝すぎて悪りぃことはねえけどよ。……夕飯は食えよ」
「了解です。今日はハム子を刺客に寄越すのだけは勘弁して下さい」
僕が本当に嫌そうな顔をしてそう喋ると、荒垣さんは声を上げて笑った。コロマルは理解したのかしていないのか、首を傾げて尻尾をばたばた振っている。
「風邪引いてんなら、お粥でも作って持ってくから寝てろ」
そうエプロンを縛り直し、キッチンへと向かった荒垣さん。気遣いを無駄にしないように今日はもう正直に寝ることにした。


影時間、何かの気配で目が醒めた。
「こんばんは」
世界はどうして、こんなに俺を寝かせてくれないのか。親しげに挨拶をした目前の囚人服の少年を一瞥すると、短い咳がまた一つ出る。

「あの、今日はごめん。寝かせてくれないかな」




僕は睡眠を愛しているけれど、

(睡眠は僕を愛してくれない)

リビルド前





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