12.サイヤ人の脅威
着いた先は南エリアの海に浮かぶ小さな島。
予想通り、ピッコロの飛ぶスピードには何とかついていくことができた。体力もぎりぎりもったため、途中で墜落してしまうようなことはなかった。
ただ、本当にぎりぎりだったため、目的地に着いたときには若干舞空術が不安定になり、落ちかけたところを間一髪でピッコロに抱きかかえられた。
「す、すみません、ピッコロさん……」
自分で飛べるといったくせに結局最後はピッコロに助けてもらい、申し訳なさにセレナがうつむく。
ピッコロの手を煩わせるわけにはいかない、直ぐにおろしてもらおうと腰に回るピッコロの腕をタップしたが、ピッコロは一点をじっと見つめて動かない。
はっとそちらに目をやれば、あの長髪の男が悟空たちと向かい合っている。男に気づかれず、だがぎりぎり声が聞こえる距離だったため、セレナも悟空たちの会話に集中した。
「なあ、おめぇ一体誰なんだ! 何者だ!?」
「何もかも忘れてしまったとは、厄介な野郎だ……。いいだろう、思い出させてやろう」
これからきさまにも色々と働いてもらわねばならんからな、と続けて男は薄い笑みを浮かべた。
「教えてやる。貴様はこの星の人間ではない。生まれは惑星ベジータ、誇り高き全宇宙一の強戦士族、サイヤ人だ!!」
(サイヤ、人……?)
セレナの腰に回っているピッコロの腕がピクリと動いた。
「そしてこの俺は貴様の兄、ラディッツだ!!」
あまりにも衝撃的な話に、誰もが一瞬遅れて吃驚の表情を浮かべた。
「でたらめなことを言うな!」
「そっ、そうだ! 悟空が宇宙人なら、なんで地球にいるんだよ!」
それでもラディッツと名乗った男の言葉を撥ね付けた悟空の言葉にクリリンたちが同調する。
「答えは簡単だ。カカロット、お前はこの星に住む邪魔な人間どもを絶滅させるために送り込まれたのだ」
──環境のよい星を探し、そこに住む者を絶滅させてから、適当な星を求めている異星人たちに高く売るのが仕事だ。
そう言い切ったラディッツはなおも話を続ける。
「戦闘力の高い住民がいる星には大人の戦士が直接乗り込むが、このようにレベルの低い星へはお前のような赤ん坊を送り込む」
(その赤ん坊が、悟空さん……)
もしそれが本当ならめちゃくちゃだ、ピッコロが可愛く見えら、というクリリンの言葉に同意だ。
五年前、ピッコロと悟空が繰り広げたすさまじい死闘がセレナの脳裏に蘇る。
もし、悟空が頭を打っていなければ。あの、恐ろしいまでの力が。
そこまで想像して、ゾッとした。
「幸いなことに、この星にも月があるな」
「……? おい、ここに月があるから何で幸いなんだ」
「とぼけるな! 月が真円を描くその時こそが、われわれサイヤ人の本領を発揮できるときではないか!」
「な、何言ってるんだ……! なんのことかさっぱりだ!」
困惑した表情の悟空とは裏腹に、亀仙人たちの表情は驚きと恐怖で凍りつく。セレナにも、ピッコロにも会話の内容がうまくつかめないが、亀仙人たちは何かを知っているようだった。
ふと、悟空の腰回りに視線を移したラディッツが目を見開いた。
「な……き、貴様シッポはどうした!」
「ずっと前に切れてなくなった!」
「なんということだ……愚か者めが! 通りでこの星の者どもと仲良くしていられるわけだ!」
もういい、と悟空が声を張り上げた。誰になんと言われようと自分は孫悟空だ、とっとと帰れと叫ぶ悟空たちの言葉にそうもいかんのだ、とラディッツは笑みを深くした。
曰く、サイヤ人はもともと少数民族だった上に、隕石の衝突で悟空を含めてたったの四人まで減ってしまった。非常に高値で売れそうな惑星を見つけたがなかなか手ごわく、三人では苦戦しそうだから悟空にも手伝ってもらいたい、というラディッツの言葉に当然、拒否をする悟空。
しかし、悟空の反応は想定内だったようで、ラディッツは笑みを崩さぬまま、平然と父親の聞き分けが悪いから息子を借りるとのたまった。構えを取る悟空をものともせず、ゆっくりと足を進めるラディッツ。
そして、悟空の手が僅かに動いた、と思ったその瞬間。
ラディッツの膝が悟空の鳩尾に深々と差し込まれた。悟空の身体が宙を舞い、砂浜にどさりと落ちる。
(あの悟空さんが一撃で……!)
悟飯と呼ばれた悟空の息子が泣き声をあげながら走りよっていく。
そんな彼をいとも簡単に引っつかんで捕らえたラディッツはさらに無理難題を言い渡す。しかも、次のターゲットは地球に決めたと宣言したラディッツに、聞いていたセレナの身体がさっと冷えた。
ピッコロの顔を見上げるが、険しい顔で悟空たちを見下ろしたまま、動く気配はない。
やめろと言わんばかりに足首を掴む悟空の手を振り払い、「いい返事を期待しているぞ……貴様のために、な」とだけ言い残してラディッツは去っていった。
激昂する悟空にクリリンたちが駆け寄った。痛みに呻きながらも筋斗雲を呼び、今すぐにでも悟飯を助けに行こうする悟空を必死でなだめ、座らせる。
「やつのシッポを握れば、力が抜けてしまうはずだ。オラが、そうだった……」
ぽつりと悟空が呟いた言葉に亀仙人が喜色を浮かばせた。
自分ひとりではとても無理だと悔しげに言う悟空にクリリンと亀仙人二人が手助けをかって出る。
ドラゴンボールで一度生き返った人は二度と生き返れないという事実に落ち込んだ様子を見せながらも、クリリンと亀仙人が悟空の援護をするということで話がまとまりかけた、そのとき。
「お前たちでは無理だ!」
という低く落ち着いた声が響いた。