13.どうしようもない無力感

 突然響いた声にきょろきょろと辺りを見回したクリリンたちだったが、声の主に気づくと驚きと恐れが混じった色を顔に浮かばせた。
 ピッコロがゆっくりと下降し、地面に降り立ったところでセレナの腰に回された腕が外れた。ピッコロ、続いてセレナに四人の視線が集まり、セレナはそっと会釈をした。

 悟空とピッコロ、二人が向かい合う。

「お、おぬしが、どうしてここに……」
「奴の後をつけてきたのだ」

 あいつともう会ってたのか、と言う悟空にそういうことだ、と短く返したピッコロ。

「そこの二人と行っても奴は倒せん……このオレが一緒に行ってやる」

 え、という声が誰からともなく発せられた。

「奴の強さが桁外れなのはよくわかったはずだ。きさまでもこのオレでもまともに太刀打ちできる相手ではない……だが、オレときさまが組めば倒せる可能性が少しは、ある……!」
「おめぇ……一体どういう風の吹き回しだ」

 勘違いするんじゃない、とピッコロが釘を刺す。

「このオレが平和なんぞに目覚めたわけではない。きさまの息子などもどうでもいい……」

 ──俺の狙っている世界征服には……奴が邪魔なだけだ。
 ささやくように言われたその一文にその場の緊張が一層高まる。

「きさまと組み、奴と奴の仲間二人とやらを片付けたら……もちろんその後はきさまをぶち倒して今度こそ……! 世界をこの手にいただくつもりだ……」
「そうはさせねぇ! ……そうはさせねぇけど、二人が組むってとこまではいい考えだ」

 ニッと悟空が笑みを浮かべる。

「その方法しか、ねぇみてぇだな」
「そういうことだ! 我慢するんだな。オレ様だって、きさまと組むなんて反吐が出そうだぜ……」

 対するピッコロの口元にも笑みか浮かんでいる。

「ブルマ、ドラゴンレーダー貸してくれ」

 ピッコロを見据えたまま悟空がそう言うと、ブルマと呼ばれた女性がはい、と返事をして家の中へ駆け込んで行く。
 彼女がドラゴンレーダーを取りに行っている間にピッコロがセレナに歩み寄った。

「セレナ、きさまはここに置いていく。このオレと孫悟空が組んでも勝てるかどうかわからん相手だ、きさまがいては足手まといになる」

 有無を言わさぬ口調に思わずセレナは唇を噛んだ。状況からしてそうなるだろうと予想はできていたが、改めてピッコロの口から聞くとなかなかに堪えるものがあった。

 それでも、ぐっと歯を食いしばると、顔を上げてにっこりと微笑んで見せた。

「わかりました。……気をつけてください」

 最後のほうは小さく、早口になってしまったが、そんなセレナをじっと見下ろすと、ピッコロはセレナに背を向けた。

 ドラゴンレーダーを受け取り、ぴょんと筋斗雲に飛び乗った悟空がいつか見たあの力強い笑みを浮かべてピッコロのほうを振り向いた。

「おめぇ、筋斗雲の速さに着いてこれるか?」
「ふざけるな。オレ様のは、きさまのような情けない舞空術とはちとちがうんでな」

 情けないと罵られたはずの悟空も、反吐が出そうだと言ったはずのピッコロも満足げな笑みを浮かべ、あっという間に水平線の彼方まで飛び去っていく。
 唇を噛み締めたまま、セレナはピッコロたちが飛び去っていった方角を見つめていた。
胸に満ちていくのは、どうしようもない無力感と、後悔の念。

(……何が『地道に努力を重ねて舞空術だけは』、だ)

 情けないにもほどがある。ぎゅう、と力が入りそうになる手を押さえ、そっと息を吐いた。

「いやいや、それにしても、まさかあの二人が手を組むとはのぅ!」

 一人思考の海に沈むセレナを差し置き、亀仙人の声にはうれしさがこれ以上ないほど溢れている。

「確かに、これ以上最強のコンビはおらんじゃろう」

 ひょっとして勝てるかも知れんぞ、という亀仙人の言葉にその場の空気がだんだんと前向きなものに変わっていった。

「素直に、喜んでいいのかどうか……」

 不信感たっぷりといった様子で呟いたクリリンに何を言っておる、と亀仙人が声を張り上げた。

「こりゃ物凄い見物じゃぞ! ブルマ、レーダーの場所は覚えておるか! わしらもすぐに向かうぞい!」
「あ、ちょっと待ってよ!! 行くなら当然あの子も連れてくわよ!」

 びし、とブルマがセレナを指さす。おおそうじゃった、あの娘もいたんじゃったの、と亀仙人がすっかり忘れていた様子でぽんと手を打った。
 悟空の兄や、ピッコロと悟空が手を組んだことのインパクトが強すぎたのだ。セレナのことなどすっかり頭から抜け落ちていたとしても無理はない。

 今の今まで水平線を見つめていたセレナは突然のことに驚いて目をぱちくりさせるのみ。

「ね、あんたなんて名前?」
「あ、すみません、今の今まで名乗りもせず……セレナといいます」

 予想していたよりもずっと好意的なブルマたちの態度に驚きつつも、セレナはよろしくお願いします、と軽く頭を下げた。

「わたしはブルマ。こんなときじゃなかったらもっとゆっくり話したいんだけどね。とりあえずそっちのフライヤーに乗って!」

 てきぱきと指示を出すブルマに言われるがまま、フライヤーに乗り込むセレナ。
 まもなくして、四人を乗せたフライヤーはレーダーが反応を示した方向に向かって飛び始めた。



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