15.ピッコロの思惑

 セレナと悟空はそれほど交流はなかった。否、ほとんどなかったといってもいいだろう。実際、まともに顔を合わせたのは五年前のときだけだし、会話と言っていいほどの会話もなかった。
 だが、それでもセレナにとっては見知った人間であり、ピッコロを助けてくれたことで自分と同じように「今のピッコロはそれほど悪い人ではない」という考えを持つ、ある種の親近感のようなものを感じていた。

 それだけに、悟空という人間の死がショックだった。

 ブルマたちの悲しみに暮れる声が響く中、ふっと唐突に悟空の身体が消えた。
 唖然とするクリリンたちだったが、ピッコロだけは心当たりがあったようで、器用に唇の片端を持ち上げて神の奴の仕業だな、と呟いた。

「えっ……」
「こんなことができるのは奴ぐらいなもんだ」

 なんてことないとでもいうかのように言い捨てるピッコロ。

 悟空を連れ去った神の思惑が読めず、クリリンはどうするつもりなんだろうとぼやく。

「ううむ……し、しかし、神様じゃったら安心してよかろう」
「どっちにしても、早く他の六個のボールを集めて、悟空を生き返らせてやらなくちゃ」

 また新たな敵が来る、他人事ではないと知ったクリリンたちの切り替えは早かった。

「まったくもう、こんな肝心なときにヤムチャったら一体どこ行っちゃったのかしら」

 眦を吊り上げるブルマに、自分が追い出したんでしょ、とじとっとした目線を送るクリリン。

「でもさ、あの孫君の兄貴って奴、なんで居場所が簡単にわかったのかしら」

 クリリンの様子もどこ吹く風で、ふと、ブルマが疑問の声を上げた。それに答えたのは意外にもピッコロだった。

「奴が顔につけている妙な機械だ」

 相手の強さも場所もわかるらしい、と付け加えたピッコロの言葉に、早速興味を持ったらしい彼女はクリリンを伴って、ラディッツの亡骸に近づいていった。

(私も、いつまでもショックを受けていないで次のことを考えなければ)

 凄惨な人の死を初めてまともに目にして、いつの間にかカラカラに乾いていた唇をゆっくりと舌で湿した。

(次に自分にできること。今のままじゃ何もできない。なら、できることを増やせばいい)

 ほとんど温度を感じない手のひらをぐっと握り締め、ピッコロを見上げた。マントを身に着け終えたピッコロは、セレナの視線に気づいてなんだ、と短く問いかけた。

「ピッコロさん、これからどうするつもりですか」
「……あの悟飯という悟空の息子とともに、修行をする」

 修行はわかっていたが、なぜ孫悟飯がでてくるのか理解できず、ぴくりと眉を動かすセレナ。

「あの子、ですか?」
「ああ。あいつはとんでもない潜在パワーを秘めている。訓練次第で強力な戦士になるだろう。孫悟空がいない今、戦力は少しでも多いほうがいい。そのためにはこのオレが鍛えてやるしかあるまい」

 そこまで言ってピッコロは言葉を切った。
 各自でやることを決めたらしい亀仙人たちは、ピッコロの次の行動をたずねるべく、こちらに顔を向けた。

「ピッコロよ、おぬしはどうするつもり……、」

 が、その問いは最後まで発せられることなく、亀仙人たちの表情が引き攣った。
 視線の先は、セレナのすぐそばで苦悶に顔を歪ませ、呻き声を上げるピッコロ。
 そして、「ずぁああっ!!!」というひときわ大きな声と同時に、文字通り二の腕から先が生えてきた。

 数秒前まで隻腕だったというのが信じられないほど元通りになった左腕に、思わず「トカゲの尻尾みたい……」という呟きがクリリンの口からこぼれた。
 セレナ自身、何度か見たことはあるがやはり未だに慣れない。五年前に一度見ただけのクリリンたちからしたら吃驚するのも当然だ。

「きさまらはドラゴンボールを探せ。神の奴とて、命を蘇らせるほどの力はない」

 べたりと腕に纏わりつく、粘り気のある液体を振って落とすと、ピッコロは平然とした顔でクリリンたちに指示を出した。

「だが、その孫悟空の息子はこのオレが預かる」

 最後に告げられた内容に亀仙人が、何、と眉を跳ね上げる。

「う、嘘だろっ!? どうするつもりっ……わかったぞ、おまえ、食べるつもりだな!?」

 キッとピッコロをにらみつけ、飛び出したクリリンの予想斜め上の発言に思わずピッコロも大口を開け、「食べるかっ!」と全力否定した。

「クリリンさん、さすがに食べたりしませんって」
「セレナさんが言うのなら心配ないのかもしれないけど……ピッコロの食生活って想像つかないもんなぁ」

 食生活どころか、水しか口にしているのを見たことがありません。
 そんな一文が頭に浮かんだが、ピッコロの「だから食わんと言ってるだろうが!」という二度目の否定にかき消された。

 どうする気だ、というブルマに、ピッコロがセレナにしたものと同じ説明を淡々と告げる。
 当たり前だが、渋る亀仙人たちを「ガタガタぬかすときさまらを殺してでももらっていくぞ」と告げて黙らせたピッコロはぴ、と引き寄せた悟飯の体を抱え込んだ。

 孫悟空に楽しみにしていろと伝えておけ、と言い残すとピッコロはふわりと飛び立った。

「すみません、ピッコロさんも悟飯君を悪いようにはしないとは思います」

 セレナも、それだけ言うと、ピッコロのあとを追って飛び立った。

「知ーらない、あたし知ーらない……」
「悪いようにはしないって、言われたって……あ、あいつ、死にはしないと思うけど確実に不良になるぞ……」
「ピッコロの良心と、セレナに祈るしかあるまい……」

 地面に転がった悟飯の帽子を拾い上げ、クリリンは「悟空とチチさん、怒るだろうなぁ」と、ぽつりと呟いた。



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