19.悟飯との修行
草地を踏みしめ、拳や蹴りがぶつかり合う音が荒野に響いている。
「攻撃が甘い! そんなことではサイヤ人の奴らは倒せんぞ!」
喝と同時にピッコロの突きがセレナの鳩尾に叩き込まれ、吹っ飛ばされたセレナの体は受け身を取る暇もなく、地に伏した。
「ぐ、ぅっ……」
うめき声を上げつつ、何とか立ち上がり、体勢を立て直す。
「……一旦ここまでだ」
そんなセレナにかけられた唐突な言葉にへ、と思わず間抜けな声が出た。空を見上げれば日はまだ高い……というか、むしろ昇ったばかりだ。
クエスチョンマークを浮かべるセレナに、ピッコロはおもむろに言葉を続けた。
「孫悟飯だ。そろそろ半年たっただろう」
孫悟飯。その名前を聞いて、頭にぱっとあの少年の顔が浮かんだ。
「そ、そういえば、そうでしたね……」
自分の修行ばかりですっかり忘れていた。
「今から奴のところへ行く。きさまも来い」
静かにそう言い放ち、飛び立ったピッコロのあとを追った。そうして、飛び続けること数十分。
空中にとどまったピッコロの視線の先をたどると、恐竜と追いかけっこをしている悟飯の姿。泣きべそをかき、父の助けを呼んでいたあの頃とはすっかり別人のようだ。
「たくましくなりましたね」
「ふん、少しはマシになったようだな。では、本格的にしごいてやるか……」
満足げな笑みを浮かべたピッコロとともに、悟飯の元へゆっくりと降り立つと、悟飯もセレナたちの存在に気づいた。
「あっ、ピッコロさん!」
「半年間、よく生きていたな。約束どおり、今日からはオレ様直々の特訓だ。覚悟はいいな」
相変わらずの態度でそう言い放つピッコロにもめげることなく、悟飯は元気のいい返事をした。
「よくがんばったね、悟飯くん」
「あっ、あのときのおねえさん……」
「私のことはセレナって呼んで」
「はい! よろしく、セレナさん!」
にっこり笑ってそう言うと、向けられたキラキラとした視線に気恥ずかしさとほんの少しの罪悪感が胸に浮かんだ。また、久しぶりに敬語を使わないくだけた話し方をしたせいか、背中がむずむずとして落ち着かない。
「話はそこまでにしろ。修行を始めるぞ」
ピッコロの一声でどこか緩んでいた空気がぴりっと緊張して引き締まる。
「まずは孫悟飯、きさまからだ。セレナ、邪魔にならないように下がれ」
言われたとおり、悟飯とピッコロから数メートルほど距離を置く。まずは悟飯の相手だけをして様子見をするつもりなのだろう。
「さあ、オレを本気で殺すつもりでかかってこい」
その言葉を皮切りに、悟飯とピッコロの組み手が始まった。
結果は、セレナの修行が始まった当初とまるっきり同じ。ピッコロの怪我は、全てセレナとの組み手でついたものだ。セレナの怪我もそれに然り。
泣き虫だけは治ったようだな、とピッコロが皮肉げに言うと、痣だらけになった顔で悟飯がへらりと笑った。殴られて大きく腫れた目蓋が痛々しい。
(ピッコロさん、本当に容赦ないな……いや、ずっと前から知ってたことだけれども)
薬草をすり下ろしていたセレナは、次の葉を手に取ろうとして、あれ、と声を上げた。
二人の視線がセレナに集まる。
「すみません、薬草が足りなくなっちゃったので取りにいってきます」
「あ、ボクも行く」
「大丈夫。悟飯くん疲れてるでしょ。明日も修行なんだから先に休んでて」
事実悟飯のほうが傷が多いため、そう言われた悟飯ははい、と言っておとなしく引き下がった。
薬草を一つ一つ摘みながら月のない岩場をゆっくりと歩く。夜目は利くほうなので、月の光がなくとも問題はない。
ふと、頭の中にさっきまで一緒にいたピッコロと悟飯の姿が浮かんだ。この数ヶ月で、ピッコロは劇的に変わった。
元からセレナに対しては、言動はずいぶんと乱暴だし、態度もそっけなくはあったが、さりげない優しさを見せる人だった。今では宿敵の息子であるはずの悟飯にも、分かりづらいながらも優しさを向けるようになっている。
それがなんだか嬉しくて、少しだけ寂しい。
そう感じる自分が可笑しくて、セレナはくす、と笑みを浮かべた。
(そういえば、ピッコロさん、世界征服を達成したあとはどうするつもりなんだろう)
昔言われたことのとおりになるならば、そこでセレナはおさらばだ。でも今のセレナはまだまだとは言え、昔とは比べ物にならないほどの力を持っている。
「危険因子として排除されるか、もしくはそのまま飼い殺しにされる、とかかな」
口をついで出た呟きに思わず苦笑がもれた。昔のピッコロならそうするかもしれない。
でも今は違う、と言い切ることができる。
(なんてね。どっちにしろ、まずは半年後にやってくるサイヤ人たちを倒すのが先だよね)
ふるり、とひとつ頭を振ると、セレナは薬草を手に、もと来た道を引き返していった。