4.お互いのことを知りましょう

 チュンチュン、という鳥のさえずりでセレナはぼんやりと目を覚ました。ゆっくりと目を開くと、視界に鮮やかな木々の緑色と赤茶けた岩が写り、はた、と目を瞬かせたセレナだったが、すぐに「ああそうだった、私はピッコロ君に誘拐されたんだった」と思い出して伸びをした。
 一晩ずっと同じ体勢で寝ていたからだろう、伸ばした腕や肩からパキっと音がした。

 この先もピッコロくんと一緒に生活するならこれは早めに慣れないとな、などと考えながら辺りを見回したが、その当の本人であるピッコロがいない。

(まさか昨日の今日で捨て置かれたとか、)

 真っ先に頭に浮かんだ可能性に頬を引きつらせながらセレナは立ち上がった。
 と、そのとき。
 がさりと音を立てて、背後の草むらからピッコロが現れた。

「もう起きていたのか」

 思わずその姿を凝視していたら、いぶかしげな顔で何だと問われた。

 ドクドクと知らず知らずのうちに早鐘を打っていた心臓の鼓動が、ゆっくりと落ち着いた速度に戻っていく。

「……いえ、おはようございます。あの、一度森に戻って水浴びをしてきてもいいですか?」

 昨日はあれよあれよという間に色々なことが起きて、結局疲れて眠ってしまったのだが、さすがに今日もこのままでいるのは衛生的にも、女子力的な意味でもあまりよろしくない。
 確か昨日通ったところに川があったはずだから…と考えながら伺いを立ててみると、

「好きにしろ。だがあまり時間をかけるな」

 とあっさり承諾を得ることができた。

 足早に川があったところまで戻り、体を清める。シャンプーやリンスがないのは地味に不便だが、そう贅沢は言っていられない。
 カプセルの中に常備していたタオルを出して手早く髪の水分をふき取りながら、途中で目に付いた果物をいくつか手に取り、セレナは元の場所まで歩いていった。

「戻りました」

 そう一言セレナがかけると、ピッコロが顔を上げ……下ろされた髪を目にすると、ぱち、と目を瞬かせた。
 自分の顔…正確には髪に注がれる物珍しげな視線にセレナは苦笑する。

「この髪色が気になりますか?」

 そう聞いてみると、こくりとピッコロは頷いた。

「この髪色、生まれつきなんですよ。うちは三人兄弟で……私だけ捨て子で、一人だけ目立つ色をしてるから表に出しておくと両親があんまりいい顔をしなかったんですよね。でもなぜか染めようとしてもなかなかうまく色がつかなくて……」

 だから見えないように中で纏めて隠してました。へらりと笑いながらそう言うと、何を思ったのか、ピッコロは手をセレナのほうに向けた。
 直後、ぽんっという音がしてセレナの手の上に何かが落ちる。

 あれ、と手の上を見るとそこには赤い髪留め。再び目の前に目を向ければむすっとした顔のピッコロが目に入る。

「これからは隠すな」

 いちいち手間をかけて隠していては時間の無駄だ、とついでのようにぶっきらぼうな口調でそう言い放ったピッコロに、セレナはくすっと笑みを溢してありがとうございます、と礼を言った。

 まだ少し濡れている両サイドの髪を手に取り、ハーフアップにして髪留めの金具を留めるとパチン、と音がした。首に髪が触れるのがなんだか新鮮に感じる。
 ピッコロはセレナが髪を結い終えたのを心なしか満足げな表情で見届けると、行くぞと短く声をかけてから歩き出した。どんどん家とは反対の方向へ進んでいくのに、セレナはピッコロに声をかけた。

「あの……一応聞いてみたいんですけど、ピッコロくん私を家に帰すつもりってあります?」

 答えはほとんどわかりきっているがそれでもなお聞いてみると、ない、と短く返された。予想通りの回答に思わず笑みがこぼれる。

「そんなことより、きさまのその妙な喋り方はどうにかならんのか」

 唐突に向けられたその問いにきょとんとするセレナ。

「妙な喋り方、とは?」
「……その敬語だ。きさまは子供相手にもそんな話し方をするのか?」
「あー……これは癖になっちゃってるんですよ。子供相手にはもう少しやわらかい話し方をするときが多いですけど……ピッコロ大魔王の関係者なら子ども扱いするのもなー、と思って」

 ピッコロ大魔王の名を出した瞬間、前を歩いていたピッコロが瞳いっぱいに警戒の色をにじませてセレナのほうを振り返った。

「……知っているならなぜ逃げなかった」
「いえ、私はピッコロくんに拉致されて名前を聞いてからそうなんだろうなーって当たりをつけただけですよ。その時にはもう逃げようにも逃げられませんでしたし」

 そこで一旦言葉を切ったセレナはにっこりと笑みを浮かべた。

「それに、あなたに興味が湧いたんです。世間ではピッコロ大魔王は倒されたと報道されているけど、今私の目の前にピッコロと名乗るそっくりな人がいて、しかも私をさらってどこかへ行こうとしている。気になるに決まってるじゃないですか。……あなたのこと、教えてください」

 そう言って見つめると、ピッコロは呆れたようにフンと鼻を鳴らした。

「……物好きめ。いいだろう、教えてやろう。このオレさまはピッコロ大魔王の生まれ変わりだ! 父大魔王は確かに孫悟空という奴に倒されたが、オレは父の遺志を継ぎ、三年後の天下一武道会で必ず奴を倒し、世界を再びこのオレのものにするのだ……! セレナ、きさまはこのオレのそばでそれを見ていろ…」

 憎しみを瞳に燃やしながら語られるピッコロの話を静かに聞いていたセレナは…柔らかな微笑みを浮かべたままだった。

「そうですか……わかりました。さしずめ私はピッコロくんの旅のお供ってところですかね?」

 大して何も出来ませんがよろしくお願いします、と微笑んだセレナを見やったピッコロは、物好きめ…ともう一度毒づくと、再び前を向いて歩き出した。


三年後の天下一武道会まで一気に飛びます



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