5.そして近づく旅の終
セレナがピッコロと行動を共にするようになってから、3年近く経った。
(途中からほぼ水しか飲んでなかったのにどういう身体をしているんだろ、ピッコロさん)
野鳥の肉を頬張りながら目の前に座るピッコロに目をやるセレナ。
時がたつのは早いもので、3年の間にセレナの腹ほどまでしかなかったピッコロはぐんぐんと成長し、今ではほとんどセレナと同じぐらいの身長になった。もともとセレナは背の高い方ではあったが、ピッコロはまだ産まれて3年しか経っていないので直ぐに追い越されてしまうだろう。
こうなると今までのようにピッコロくんと呼ぶのもなんだか変な感じがしたため、ついこの間呼び方を「ピッコロさん」に変えたところだ。体が大きくなってから「ピッコロくん」と呼ぶたびになんだか微妙な表情をしていたのだが、変えたとたんにそれがなくなったため、変えて正解だったとセレナは思う。
「……なんだ」
また見つめすぎていたようで、ピッコロが閉じていた目を開いてセレナのほうを見た。
ああ、悪い癖がまた出たな、と困ったように笑い、いいえ、と答えた。
「天下一武道会って、」
「ああ、明日だ。」
誤魔化すように口を開くと、やや食い気味にピッコロが言葉をかぶせてきた。選手登録とやらは今日らしいがな、と付け加えると、また目を閉じた。
(旅の終わりが、近づいている)
無意識のうちに避けていたものが気づけばすぐそこに迫っている。正直、どちらが勝つのか、セレナにはまったく予想がつかない。ピッコロが勝てば、邪魔をする者はいなくなり、世界はピッコロのものになる。「孫悟空」が勝てば……ピッコロは倒され、今まで通り、世界は回っていく。
──その時、私は?
「オレはこのまま舞空術で会場まで向かう。貴様はどうやって行くつもりだ」
低く問いかけられ、ハッと意識を目の前に戻す。現在位置を思い出し、旅費をざっと計算して……その結果に力なく笑う。
「手持ちのお金にあんまり余裕がなくて……ゆっくり時間をかけて、舞空術で行こうかと」
ピッコロさんに迷惑をかけるわけにはいきませんし、ときれいに肉をとった骨を焚き火に放り込む。
三年間、ピッコロとともに旅をしているうちに、セレナも舞空術だけは使えるようになった。気紛れに舞空術の仕組みを聞き、見よう見真似でやってみたらできてしまったときのピッコロの愕然とした顔を思い出し、笑みがこみ上げてきた。とはいってもまともに修行をしていたわけではないのでスピードはそこまで出ないし、とんでもなく体力を使うためそこまで長時間は飛んでいられないのだが、少なくとも落下死する心配はなくなった。
ふん、とピッコロが鼻で笑う。
「貴様の情けない舞空術で行ったところで途中で力尽きるのがオチだ。貴様にはオレ様のそばで世界征服を見届けるという役目がある……」
次の瞬間、セレナの視界がぐっと高くなった。同時に、腹部に感じる圧迫感。
ピッコロに抱えられているのだと理解するまでに数秒かかった。
「え、ピッ……」
「騒ぐな」
声を上げようとしたセレナだったが、すぐにぴしゃりと放たれた言葉に口を噤んだ。
「騒いだ瞬間に落とすからな」
そんなことを言いながらふわりと浮き上がるピッコロの腕は、言葉とは裏腹にしっかりとセレナの身体を支えている。
こうして、時々ピッコロの優しさに触れると、彼が世界征服を企む大魔王だということを忘れてしまいそうになる。もっとも、彼の場合は単純な優しさだけではないのかもしれないが、それでもセレナにはテレビで見たような恐ろしい大魔王の生まれ変わりそのものだとは思えなかった。
──このまま、この時間が続けばいいのに。
一瞬、頭をよぎった考えに苦く笑みを浮かべた。それを振り払うように、ひとつ頭を振ると、ありがとうございます、と小さく言った。
ピッコロからは何も返ってこなかったが、自分の体を支える腕の力が少しだけ、強まった気がした。