7.第二十三回天下一武道会

現時点でセレナさんはまだ武道未経験者、且つ傍観に徹しているのでピッコロさんと悟空の決着がつくまでは空気になることが多くなります。ご了承ください




 リングアナウンサーの声かけにより、選手が武舞台に上がってきた。
 第一試合は精悍な顔つきをした三つ目の男と、サイボーグの男。どうやらさきほどの女性の仲間のようで、しかも何か因縁があったのかとても重苦しい空気だった。
 事情を知らないセレナにわかるはずもなく、彼らの仲間らしき三つ目の男……天津飯の勝利を純粋に祝福した。
 第二試合で「孫悟空」を初めて目にして、少しだけ想像と違っていたことに驚いた。それでも、人好きのする笑みからは一切の邪気が感じられず、これが大魔王を倒した人物か、と半ば感心しつつ、観察に徹していた。
 ……さすがに武舞台で結婚してしまうとは思わなかったが。
 屋根の上にたたずんでいるピッコロも自分と同じく、孫悟空を見つめその実力を見定めようとしているようだった。
 また、驚いたのが天津飯と孫悟空も仲間だということだった。つまり、実質的に先ほどの集団とセレナは敵対関係にあるということになる。

 深く考える間もなく、第三試合。ピッコロの番だ。対戦相手は、道着から察するに孫悟空の仲間。衝立の隙間からちらちらと覗く姿を見る限り、今大会出場者の半数が孫悟空の仲間のようだ。

 そうこうしている間にも、赤い道着を来た小柄な青年が舞台に立ち、屋根からはピッコロが武空術でゆっくりと降りてくる。先ほどの結婚騒ぎで緩んでいた空気がぴりりと緊張するのを感じた。

 一言、二言ピッコロとクリリンがなにか言葉を交わす。しばしの睨み合いの後、クリリンの突き出した両手の平からオレンジ色の光が迸った。ピッコロが宙に飛び上がり、目から光線を放ってオレンジ色の光線を相殺する隙をついてクリリンがピッコロの頬に突きを叩き込む。そしてすぐさま両者とも武舞台の中央に戻り、構え直した。

 鮮やかな両者の動きに思わずごくりと唾液を嚥下するセレナ。

 やがて、少しだけ実力を見せてやる、というピッコロの言葉通り、いとも簡単に攻撃をいなし、浴びせられる容赦のないピッコロの攻撃により、クリリンは降参の言葉を口にし、敗退した。歓声を上げ、涙ぐむ水色の髪の女性を横目に考え込む。
 一連の動きがなんとかセレナの目にも捉えられたのは日常からピッコロの修行を見てきた賜物だ。それでも、やはり今日この武舞台に立った者たちはやはり常識レベルを超えた達人なのだ、と改めて思った。そんな相手が少なくとも四人。
 クリリンに攻撃を浴びせ、反撃されるたびにピッコロの顔に浮かんでいた残虐な笑みが驚きの表情に変わるのをセレナはしっかりと見ていた。
 つまり、ピッコロの予想よりも孫悟空たちの実力が高かったことがわかる。

 白い紙に墨を落としたように、じりじりと不安が胸の底を蝕む。

(……『不安』?)

 自身の不可解な心情に眉を寄せるセレナ。

(そもそも、ピッコロさんには「オレのそばで世界征服を見届けろ」と言われただけ。でもそれはピッコロさんが勝ったらの話。勝敗は別に関係ないはず、なのに……)

 いまだ舞台上に残っているピッコロに目を向ける。ピッコロと目が合うことはない。
 それでも、堂々とした足取りで舞台から退場していく彼の姿を見て、少しだけ気分が落ち着いた。


 そして第四試合。武舞台に姿を現したシェンの姿に、セレナは僅かに眉をひそめた。孫悟空たちの反応を見る限り、どうも仲間ではないらしい。
 勝敗はあっさりシェンに決まり、試合はどんどん進む。

 第五試合。ここまでくるともうセレナの目にはほとんど捉えられない。人好きのする笑みを浮かべ、孫悟空は天津飯との試合にあっさり勝った。

 第六試合。ふわりと屋根から舞い降りるピッコロに目をやると、一瞬だけ目が合った。すぐにふいっとそらされてしまったが、落ち着き払ったピッコロの表情はいつもと変わりない。ぎゅ、と掌を握り締め、息を吐いて考えるのをやめ、試合に頭を集中させた。
 少し時間を置いてからやっと現れたシェンはヤムチャのときと同じようにするのかと思いきや、最初からとばしていく。激闘の後、よくわからない言語での口論を経て、シェンから魔封波が放たれる。そして……ピッコロに当たる寸前でそれは跳ね返され、逆にシェンの体を捉えた。
 瓶に吸い込まれる直前、シェンの体からかつてのピッコロ大魔王に似た誰かが飛び出し、「孫よ!私は死んでもかまわん、こやつを倒せ!世を清めてくれーッ!」と叫ぶのをセレナは確かに聞いた。
 目を見開き、吃驚の表情を浮かべる孫悟空一行とは対照的に、ピッコロの顔には満足げな笑みが浮かんでいる。ダウンしたシェンは結局起き上がることなく、ピッコロは勝利を収めた。

 決勝戦まで十分間の休憩を設ける、とリングアナウンサーが宣言したところで空が暗くなり、ゴロゴロと不穏な音を響かせ始めた。
 衝立のところでピッコロと孫悟空が何か話しているようだが、遠くてよく聞こえない。ただ、あの瓶をめぐって言い争っているのは見て取れた。

 ぽつり、ぽつりと降り出した雨が瞬く間に大降りになり、地面を叩きはじめ、観客たちは雨宿りのために散っていく。
 傘を差してその場に立ち尽くすセレナの脳裏に、ピッコロの冷たい笑みと孫悟空の明るい笑みがちらついた。

 あと十分もすれば、試合……否、殺し合いが始まる。

 そう思っただけで胸の底が冷えてこわばった。ぐるぐると色々なことを考え続け……最後に出てきたのは「ピッコロと旅をしていたこの三年間の生活に戻りたい」という思いだった。



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