火葬場に埋まるのは


外から得る情報は歳の割に足りていなくて10数年間過ごして来た環境がそうさせて居るのだと気付けたのは彼のお陰で。
求めずとも与えられる最大値の贅沢は鳥籠のようなこの世界では比べる対象など皆無で、其れが至上の幸福であるのだと言われてもただ首を傾げる事しか出来なかった。周りにいる人間は代々受け継がれてきた、この血筋に仕える事を生とする血族集団間の階級上位の者ばかりで似たり寄ったりの彼等の人生は最早寝物語として聞くにも値しないものであった。



「あと、6分」

壁に掛かる宝石の散りばめられた見るからに重そうな時計に視線をやる。数年前からカウントダウンを始め待ち焦がれた約束の時間までに何度見たか分からない其れと過ごすのも、もう今日でおしまい。そう考えれば自然と頬は緩んで、使用人の仕事だからと足を踏み入れた事などなかった衣装部屋を引っ掻き回し見つけた比較的シンプルなドレスを着て意味もなく部屋中を歩き回る。

数年前異例としてこの城に現れた彼は俗に言う”外”を経験した者で、この扉を開け書斎に忍び込んだだけの”外”しか知らない私は別の星の話ではないかと本気で思った。生まれた頃から同じ線路を順に進んできたような彼等からは聞いた事もない、まるで夢物語のような話を初めて聞かせて貰ったあの日の事を忘れる事はない。それからは飽きる事なく毎日のように眠りにつく前には彼を呼び、喉が痛いから勘弁してくれと言うまで話させた。
聞けば聞く程にこの目で確かめたくなって抑えきれない好奇心から窓を開け飛び出そうとした私を珍しく慌てたように止めたのも彼。いつか絶対に外に出るのだと言った私に、まだ早いよと少し呆れたように笑い、今日この日まで待てと耳元で囁いた。



月明かりが差す窓に2度、何かが当たる音。


慌てて駆け寄るものだから散らかした衣服に足を巻き込み軽く躓く。窓から身を乗り出せば別れは済んだかというように笑う赤。広げられた腕に飛び込んでしまえば、もう、








「ていう夢を見たの」
「頭沸いてんの」

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