松野一松は*****が言えない


「私、この街を出るの」

そんなことを名前から聞かされたのはもう1週間も前で、気付けば今日は出発の日になっていた。

ここは終電を待つ駅のホームで、僕達の他には酔っ払いが疎らにいるだけの空間で、君は少し寂しそうな顔で僕を見ていた。

「‥‥ほんとに行くの」

「行くよ、向こうで夢叶えるの」

「ふーん‥‥がんばって、」

「うん‥‥」

「もう、戻ってこないの?」

「‥‥‥‥うん、そのつもり」

なんて、ぽつぽつと言葉を零していると、電車が来た。
乗り込んだ君は、僕に最後のお別れを言うんだ。

「それじゃあ、元気でね‥‥一松、私ね」

[ドアが閉まります、ご注意ください。]

やたらと機械的な声が聞こえて、無情にも君と僕の間は隔てられた。
君の言葉の続きはなんだったのだろう、僕だけを残して最終電車は君を攫って行ってしまった。

「‥‥‥‥いかないで、」

なんて、もう遅すぎた。



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「松野一松はいかないでが言えない」

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