先程まで賑やかな音に包まれていた居酒屋がシン、と水を打ったように静まり返った。わけが分からず隣にいる緑谷に視線を寄越すと同じように首を傾げていた
以前ばったりと出会ったあの日に"珍しくA組とか親しかった人達全員が集まれそうだから普榧さんもどう?"っと飲みに誘われたのだ。丁度その日に仕事は無かったので行きたいと思い了承してやって来た、のだが…。
最後に会った時より幼さが完璧に抜け、だけども見知った顔が揃いも揃ってぽかんと呆けていたり目を丸くしていたり無関心を貫いたり、と様々な反応。あ、先生達まで居るんだ…
「み、緑谷…てめぇ彼女連れてくるとか聞いてねーぞ!!!!!!」
「「えっ」」
峰田の一言で緑谷と心が重なった瞬間だった。なるほど、そういう事か〜…と納得できた瞬間でもある。
周りの、主にドンちゃん騒ぎが好きな子達はうんうんと大きく頷いていた。多分格好に気使ってるから分からなかったんだろう。逆に1発で見抜いた緑谷の洞察力が凄すぎるだけとも言える
「え、いやいやいや!?普榧さんと付き合ってるわけじゃないからね!?」
「ほら、私普榧冬華…皆お久しぶり、緑谷に誘ってもらったから来ちゃいました。やっぱり連絡入れといた方が良かった?」
数秒時間が開いた後、辺りに普榧ー!?や、冬華ちゃん!?と驚く声が貸切の居酒屋に響き渡った。相澤先生にはたまにお会いするけど皆には会ってなかったもんね。私は一方的にテレビ越しで知ってたけれども
三奈や透、お茶子を筆頭にA組女子に詰め寄られてはぺたぺたと全身をくまなく触られつつ確認された。あれだけ頑なにメガネと前髪上げるの嫌がっとったのに…!と感動をしていたお茶子には普通に引いた。響香には綺麗になったじゃんと褒められ、それに続くように梅雨ちゃんや百からも褒められた。うーん懐かしいけど照れくさい
「くそぉっ…あんな近くにこんなレベル高いのが居たとか聞いてねぇぞ…!?」
「峰田、聞こえてる」
「お前念願の彼女出来たんだろーが!ここは俺ら非リアに席を譲れ!」
「上鳴くんにも冬華ちゃんは渡さんからね!!」
「いったぁ!?って麗日ァ!?」
「麗日のやつ、普榧にかなり懐いてたもんなぁ」
なんて言いながらケタケタ笑う声が男の方で聞こえたが総スルーである。学生時代に鍛え上げられたスルースキルは伊達ではないと実感したと同時に懐かしさに頬が緩む。そしてお茶子に手招きするとぱぁっと顔を明るくさせてこちらに駆け寄って来た。こう言った素直な所が可愛いから可愛がって甘やかしてしまうのだ
ミッドナイトからは随分変わったけど男でも出来たの?なんて艶っぽい雰囲気を出しながらニヤニヤと聞かれたがノーコメントを貫いた。すると響香に引っ張られ一番端っこに連れてかれる。
騒がしい声が遠くに聞こえ、私と響香はカウンターに座り、そして半ば無理やりお酒を注文させられた。
「で、実際はどうなの?男は出来たりしちゃったわけ?」
「響香も聞いちゃうんだ」
「そりゃあまぁ…気になるし」
店員さんが運んだきた酎ハイをちびちびと飲みながら、ここ数年の記憶を思い返す。
長続きはしなかった思い出しかない。
理由はまぁ…好きになれなかったのだ。
絶対好きにさせるから!なんて寒いことを言ってやむを得ず付き合ってみた人しかおらず両想いという訳ではなかった…なんてことをぼかして伝えると苦笑いを頂戴してしまった
「まさか冬華と恋バナ出来る日が来るとは思わなかったけど、想像通りというかなんというか。まぁ冬華って好きな人とかって作らなそうだし、」
「作らないじゃなくて出来ないだけ」
なんてふざけて言うと口端を上げてそーだったっけ?なんてとぼけられた。こんなノリが懐かしく感じると同時に好きだったなぁ、だって高校時代が一番馬鹿できて楽しかったんだもの。今も十分楽しいけれどこれとそれは違う。
ここまで仲良くなったの多分A組の皆が初めて、というものもある。
「冬華は高校の時から男っ気無かったもんね、だからこそ変わっててビックリしたっていうのもあるけど」
「その話に戻るわけか。私も多分親に結婚結婚ってせっつかれなければこんな小綺麗にしてないよ」
「へぇ、それが理由だったんだ」
「そうなんだよねー…早く孫みたいとか彼氏連れてこいやらうるさくなっちゃって」
「…ドンマイ?」
「笑い事じゃない…」
ぐったりとしてみせれば苦笑いを浮かべた響香と目が合う。その目線は段々と下に行き私の胸元でじとっとした目を向けられた
あー、高校の時は平らじゃないけど響香より少し大きいぐらいだったのを思い出した。それが今じゃお茶子より大きくて百には負ける程の成長を果たし自分でも困惑である、多分一時期乳製品やらストレッチにどハマりした事があるのでそのせいだと思う
それに私は正直響香と違って巨乳になりたかったわけではなかった…、なんて言うと響香に殺されそうなので黙った
「ちょっと成長しすぎじゃない?もぐぞ」
「響香目が本気で怖いから」
「半分冗談だって」
「半分本気ってことじゃん」
「あはは」
どこか遠くを見つめる響香に引きつつも最後の一口のお酒を飲み終えた。お冷と先程と同じ物を店員さんに頼むと忙しなく動き始めた
すぐに運ばれてきたお酒を口に含みながらのんびりと駄弁っていると、轟がこちらに来ているのに気付いた
轟も髪を切っており緑谷より短く7:2で分けている、ただのイケメンだ
前は王子様系イケメンだとすれば今はそれにワイルドがプラスされたような感じで、結局はイケメンが何をしてもイケメンということが分かった
イケメンのゲシュタルト崩壊である
「轟どうしたの」
「耳郎と普榧も向こうで飲まねぇか?八百万達が待ってた」
「あー、了解今から行く。冬華も来るでしょ?」
「これ飲み終わってから行く」
それだけを告げると響香はグラスを持ち皆の方へ向かっていったが、轟はグラス片手にこちらへやってきたまま何かを考えるように突っ立っていた
「轟?」と呼びかけると視線が交じあう
「向こうに行くまで俺もここで飲んでいいか?」
「__あぁ、上鳴達のテンションが最高潮なけね。全然いーよ」
先程より随分と大きな上鳴の声が聞こえ騒がしいせいかと察すると苦笑いの混じった、だけどどこか楽しそうな表情をしていた。そういや緑谷やお茶子達の他にも轟とも仲良かったっけな…、
緑谷同様よく意見聞きに行ってたからなぁ。経営科で将来関わるであろうヒーロー達の意見を聞きに良くA組やB組にお邪魔してたのだ。その中で轟は視野も広く色んな意見をポンポン言ってくれるのでよく話していた
今でも連絡は取るのだがまぁお互い忙しくて会える機会は無かった
当然と言えば当然だ。轟は2ヒーローとして活躍し、1を取っては緑谷に勝ち取られてを何年も繰り返している。爆豪はやはりあの性格の為一般人にビビられて3に落ち着いており本人にその話題を出すとキレられるから面白いよ、とすっかり爆豪の扱いを覚えている三奈がつい先程言っていた。そしてそれを地獄耳な爆豪が拾い無言でギリギリ歯軋りしていたっけなぁ…
「それにしても轟久しぶりだね」
「あー…確かにそうだな。お前忙しそうだったし」
「んー、ヒーロー事務所の立ち上げから相棒を雇ったり、色々安定するまで全部私がやってたんだよねぇ…。事務業もしながらやってたし中々最初は上手くいかなかったんだけど今じゃ落ち着いて秘書やってる。前はちょっときつかったんだけど今じゃ中々楽しいよ」
「良かったな、普榧が働いてる所ってどこなんだ?ずっと知らねぇままなんだが」
「企業秘密でーす」
口の前に指でバッテン印を作ると明らかにムッとした表情を浮かべる轟にクスクスと笑うと更に眉間に皺がよった。可愛いって言ったらおかしいけど…本当に可愛いんだからしょうがない、イケメンで天然で悪い所なんてないのが逆に妬みの対象になるのだが…こういう所が憎めないんだよなぁ
というか顔が良すぎる。なんか後ろに光が差し込んでるかのような錯覚がし気のせいだ、と目頭を揉んだ
轟の目元にある火傷の痕が最初は痛々しくて見る度に顔が強ばったけどそれさえも今じゃイケメンの要素を際だたせるのだから罪な男である
顔で言うと一番好きかもしれない。でもその好きは恋愛感情じゃなく憧れとか、アイドルに対して感じるような好きで今後発展なんてする筈ないのだ
だって私と轟なんて釣り合わない、それは見ただけで分かる
「?おいどうかしたか」
心配そうに覗き込むようにグッと近づけられた轟の顔は思った以上に近くてどくどくっと否が応でも意識される
これが憧れだ、と暗示のように心の中で呟くがどくどくと早く鐘を打つように動く心臓に、これがイケメンの破壊力っ…!ともはや感心さえしながら声を絞り上げた
「っは、…っ…、ちょっと…!近い近い」
「ぁ、すまねぇ」
「ん、ほんと心臓に悪いなーもう」
「そうか…?」
「これだから天然は…」
水を飲み終わるとそろそろ向こうに行こうと伝えると不服そうな轟も席を立ち上がりひょこひょこと後ろを着いて来ていた
なんだこいつ可愛い
あまり酔ってなかった瀬呂や爆豪に何故か白い目を向けられるが意味がわからず首を傾げるしか出来なかったが、私も騒がしい輪の中に入るのであった