放課後

私立青葉城西高校の体育館に響くのは運動部による練習の掛け声体育館の床と靴が擦れキュッキュッという音、そしてせーの!というラスボス感漂う先輩女子による掛け声と女子生徒による応援の声


「及川さぁーん!!頑張ってくださぁい!!」

「及川さん頑張ってー」


後から続くのは私の面倒くさそうな感情のこもっていない平坦な声。それを咎めるように私の腕を引っ張るのは唯一と言っても良い幼馴染みで大親友であるゆい
彼女は染めていない肩上までの茶髪をふわふわと揺して薄らとメイクをしているが決してケバくはないthe女子高生。容姿はもちろん可愛いらしく性格もかなり良い。そのため男子生徒に狙われやすいが、彼女を知っている者は皆結が及川さんに恋する乙女と分かっているので誰もが諦めているとだけ言っておこう


「ちょっと裕佳!応援するならちゃんと応援しなきゃダメだよ!メッ!」

「だって私及川さんに興味無…ヒェッ何でもないですどうぞ応援を続けて下さい」


先輩女子の睨みにより私は口角を引き攣らせた。さて、及川さんというと我が青城(青葉城西の略である)のアイドル的存在。
そもそも及川徹こと及川さんだけに限らず青城バレー部は県内ベスト8と宮城で強い所と言ったら青城があがることもあるだろう。しかも部員の顔がかなり良い為、数々の優勝実績だけでは無く美形男前が勢揃いなのに拍車がかかり運動神経も抜群スタイル良しとかなり目を引く部活なのである
その中で、及川徹という人物の容姿も人当たりも成績も良いと言われアイドル的存在なのだ

まぁ私は及川徹やルックスの良い部員なんて興味が無い。ただ親友の付き添いの為に態々こうしてバレー部の練習を見ているわけなのだ。

まだ春と言えどヒヤリと冷える宮城、冷たい手摺の部分に肘を乗せ練習風景をただ静かに見るのは面白い
及川さんの幼馴染みで阿吽の呼吸とも呼ばれている、岩泉さんが私達女子生徒にかまけている及川さんにバレーボールを見事なスパイクで後頭部にヒットしたり、それを見て松川さんと花巻さんがからかうという光景は青城3年バレー部の恒例化していた
そういえば1年の教室では国見くんを金田一くんが世話する光景がしょっちゅう見れるらしい

アッ、丁度国見くんがサボろうとしてコーチに怒られたようで金田一くんに背中を押されていた
それをぼんやり見ているとぱちりと国見くんと視線がぶつかった。それは瞬きをした瞬間に逸らされたけれど珍しいこともあるもんだなぁなんて呑気に見ていた


「裕佳ー?どした?」

「なんもない、珍しいこともあるなって思っただけ」

「ほーう?」

「ゆーさん私の顔ジッと見てどうかしましたか」


ジッとこちらを見つめる大きな瞳を覗かせ私はなんだ?と首を傾げながらも聞くと、パッと近かった顔が離れていった


「何もない!よっしもう少し応援したら帰ろっか」


それを「んー」と分かったの意味を込めて返し手摺ではなく壁に寄りかかった。さてもう少しは10分前に聞いたが後どれ位残るだろうか?
前回と同じく最後まで残りそうだなぁと思いながらも最後まで付き合う私はやっぱり幼馴染みには弱いようである。



◇ ◇ ◇



放課後カフェオレのパックをズコッと鳴らしながら男子生徒の前の人の椅子を借りてとある男子に数IIを教えていた。ちなみに教える代わりに今私の飲んでいるカフェオレを奢ってもらったのだ
最初は渋っていたけれど飲み物を奢ってくれると言われ簡単に承諾した私はゲンキンなのだろうか。きっとそうではないと思う


「不正解」

「うがぁぁあマジでか!正解してねーの!?」

「ここ、計算ミスってる」

「…?あーーーマジだ」

「矢巾この公式使う問題苦手っぽいもんねウケる」

「うけねーーよ、あーやばい部活」

「お前はプリント全問正解で出すまで部活ダメだって言われてましたよねえ、まぁ自業自得だからざまぁなんだけど」

「うわぁ…腹立つ… 」

「課題やってない矢巾が悪いと思うよ」

「ウグッ…」


シャーペンを握りしめ親の敵のような瞳でプリントを睨みつけているのはバレー部に所属している矢巾で、高校に入ってから2年連続同じクラス。1年の時から席替えをした時に隣の席になる確率がかなり高くて仲良くなったのだ。今もこうやって隣の席同士で勉強を教えあったり仲良くしている

矢巾は数学だけは苦手だがそこそこ成績は良い、そしてバレー部である


「せんぱーい及川さんがお呼びでーす」

「あーーーもうちょい待って…!」

「ほらお迎え来たじゃん」


廊下から聞こえるのはバレー部の声出しの時に良く聞く声で…、国見くんかなぁと思き振り向いたらやっぱり国見くんだった。
ゆったりとした気ダルそうな声は矢巾のことを及川さんが呼んでいると告げている。まぁ部活始まって30分も過ぎてるし、後輩である国見くんを迎えに寄越したのはちょっと分からないけど

長い手足を扉にかけてこちらを覗いている国見くんは一瞬目を見開いていた


「矢巾さっさと終わらせてやりなよ、国見くん待たせてるんだし。提出と鍵閉め私がしとく」

「さんきゅー!また何か奢るわ」

「らっきー、ほら後1問」

「待ってこれクソ難しいんだけど全く意味わかんねぇ!」


私が「はー、例題4の公式使ってやれば出来るから」と言うと今気付いた様に「んー?あ、ホントだ」と、返された
矢巾は頭はいいから解こうと思えば解けるのにとりわけ今勉強している所が苦手なようで
まぁ複雑な問題だから仕方ないと思うし私も覚えるのに苦労したのだが

国見くんはつまんなさそうにしているから私は教室の中おいでおいでーと手招きをすると首をかしげながらもやって来た。それが大きいのに小動物っぽいのが面白くてポケットに入っていた一口サイズのチョコレートを差し出した


「あ、国見だけずるいぞ。裕佳のチョコ貰えるの希少なんだから」

「逆にわざわざ勉強教えてあげてるのにあげるわけないでしょーが」

「スミマセンデシタ」

「…ありがとうございます」

「いーえ、わざわざ矢巾呼びに来たのに待たせちゃってごめんねーっていう意味も込めてるから」

「別に…練習サボれるんで良かったんすけど」

「つまんなそうな顔して待ってたけど」

「あー、分かります?」

「むしろなんで分かんないと思ったのさ」


怠そうな目をやっくり瞬かせながらも苦笑いをしている国見くん、矢巾はこちらの様子など目に入らないかのように集中して解いておりバレーバカだなぁと思っていた
居残りが嫌で早く部活行きたいなら忘れずに持ってこいよと零しかけたが飲み込む。集中してるのに水を差したら申し訳ないし


「終わったッ!!よっしゃ青原あおはら後は任せた」

「任された、矢巾と国見くんも部活ふぁいとー」

「さんきゅ」

「どーも」


青原、それは私の苗字である。
何故か待たせた側の矢巾に引き摺られていく国見くんを見送り私はいそいそと鍵締めを始めた。幼馴染みの元へと急がなきゃいけないから。先程からSMSに催促する連絡が10件程来ているのである、うるさいしなんで私が毎度体育館に付き添わないといけないのか未だに分からないけど結に甘い私はどうしても付き合ってしまうのだ
いい加減幼馴染み離れをさせた方がいいのやらと考えるがどうせ家が隣同士だし割とはっきりと物を言うあの子のことだ、意味を成さないだろうから諦めた。

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