シークレット、見破ったり

「そういえば、先輩宛てに預かってるモノがあるんスけど」

 体育館に、熱気が充満する。レギュラー陣が休憩に入っても、熱気は冷めることを知らない。
体を動かせば暑くなるのは人の身体の摂理ではあるが、五月ともなれば気温も徐々に上がりだし、肌を伝う汗が何とも不快だ。

 シャツの襟ぐりを強引に持ち上げて、少々乱暴に汗を拭った中村は、思い出したかのように口を開いた黄瀬を胡乱な目で見た。
人目を引く黄色い頭の後輩との付き合いは、今年で二年目になる。そういう物言いも慣れたもので、中村は視線だけで話の続きを催促した。

「ほら、先輩、今日誕生日じゃないっスか。だから、そのプレゼントみたいっス」
「へえ。ちなみに、渡し主は誰なんだ?」
「中村先輩もよく知ってるあの子っスよ。……あ」

 人懐っこい笑みでそこまで言いかけて、黄瀬は慌てた様子で口を塞いだ。そうして一通り焦ってみせてから、おそるおそる中村に伺いを立てた。

「……オレ、名前言ってないっスよね」
「言ってはないな。分かりやすいヒントは貰ったけど。俺もよく知ってて、黄瀬に伝言を頼むような『あの子』っていうと――」
「推理しないで欲しいっス! トクメイキボウなんスよ! 絶対言うなって、オレ今日だけで何度も言われたんスから!」
どうやら、黄瀬にプレゼントの中継を依頼した人物は、大層釘を刺したらしい。それでも、中村に聞かれて素直に名前を挙げてしまいそうになるのは、黄瀬に叩き込まれた運動部特有の体育会系的上下関係の弊害だろうか。
中村は、上下関係をしっかり叩き込まれた黄瀬にも、体育会系の上下関係をよく知らずに黄瀬にプレゼントの配達を依頼したという誰かにも、ほんの少しだけ同情した。

「……で、匿名希望の『あの子』とやらは、何か言ってたか?」
「『誕生日おめでとうございます』って言ってたっスよ。あ、あと『練習頑張って下さい』とも言ってたっス。インターハイの地区予選も始まってるんで、多分、気を使ってくれてるんスよ」
当たり障りの無い伝言に、中村は思わず笑ってしまいそうになった。『あの子』とやらは、その正体が中村に見抜かれることの無いように、個人が特定出来ない、誰が発言してもおかしくない内容に留めたのだろう。黄瀬が漏らしたヒントと、そのいじらしいやり口を合わせて考えれば、もう正体など見えているに等しいというのに。

「なあ、黄瀬。練習が終わったら、なまえにプレゼントの礼を言おうと思うんだが、なまえはなんて言うだろうな」
「な、何言ってんスか! なまえっちはプレゼントとか、伝言とか、全然関係無いっスから!」

 大慌てで墓穴を掘りかけている黄瀬に、中村は薄く笑った。
きっと、黄瀬にプレゼントを託したという犯人も、同じように狼狽えるのだろう。
気を使ってくれているのは中村にとっても嬉しいことだが、それでは足りないとわがままを言っても良いじゃないか。直接声が聞きたいと、黄瀬の伝言ではなく、彼女の声で紡がれた『誕生日おめでとう』が聞きたいと願っても良いじゃないか。今日は、中村の誕生日なのだから。

 練習再開のホイッスルが、体育館に反響する。
ひとまずは練習に打ち込むが、その前に、中村は黄瀬の背中に声を投げた。
「黄瀬、『預かってるモノ』、忘れるなよ。練習終わったら貰いに行くからな」
「はいっス! オレが持ってるより、中村先輩が持ってる方が、絶対喜ぶっスよ!」

 バスケットシューズのスキール音が鳴る。まずは、練習だ。プレゼントを受け取り、犯人に正体見破ったりと突きつけるのは、それからだ。
その瞬間を想像するだけで、中村の口元が綻んだ。

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