黒の競売会 T


「うむ……どうしたものか」

 ミシュラム保有地。宝飾店や服屋、レストランが立ち並ぶアーケードを当てもなく歩きながらフランは唸った。
 とある筋から『黒の競売会』なる催しに参加できる招待カードを譲ってもらったのだが、いざミシュラムに来て下見をしてみれば同伴参加が一般的だと聞く。単身でも構わないそうだが目立つかも知れない可能性を鑑みるとそれは避けたかった。
 適当な壁に寄りかかって懐からエニグマを取り出し、蓋を開けたり閉じたりしながら考えを張り巡らせる。
 まずギルドの面々を思い浮かべる。しかしアリオスは現在出張でクロスベルには不在で、ヨシュアとエステルも鉱山方面に仕事だと言っていた気がする。他の遊撃士達も今日は各々忙しい持ち回りだった覚えがあって。
 次に思い浮かんだのは特務支援課の面々の顔だった。ヨシュア達から昨日話された「ロイド達がレンから黒の競売会の招待状を受け取った」という彼らならワンチャンスあるかも知れない、そう考えて取り敢えずリーダーであるロイドに訊ねてみようと彼のエニグマの番号に掛けようとして――フランはホテルに続く階段を降りてきた人物達の姿を見てぎょっとした。

「じゃあ、あそこのブティックで服の調達を……あれ?」

「どうしたの、ロイド? ……あら?」

「何ですか二人とも、ホテルの入口で棒立ちになったら他の人の迷惑に、え?」

「おっ、フランさんじゃないっすか!」

「おや、『絶剣』のお姉さん。奇遇だね?」

 エニグマを片手にぽかんとしていると四人、いや、五人はぞろぞろと階段を下りてきて寄ってきた。頭痛を覚えそうな額に手を当て、一拍置いてからフランは問う。

「……特務支援課諸君は兎も角、何故君までも居る。ワジ」

「ふふ、ちょっと副業でね。お忍びのパーティーの同伴に呼ばれてるのさ」

「相変わらず謎の多い子だな……それと、」

 フランはさっと周りに視線を走らせ、声のトーンを落として続ける。

「君達も、『黒の競売会』目当てでミシュラムに来たんだろう?」

 その質問にロイドは一瞬驚いた表情をしたが、質問の意味が分かると真剣な顔で頷く。

「……ええ。そういうフランさんも、じゃあ……」

「ああ。とある筋から招待状を貰ってね。……聞いたよ、エステル達から。レンから招待状を受け取ったんだろう?」

 そう言うとフランはフ、と柔らかく微笑する。仲間を……レンを心配するような、それでいて問題が一つ片付いて安心したような微笑。
 いつも固い表情や普通の笑顔しか見ていなかったので、ロイドはフランもこんな表情をするのだと見入っているとバチ、と視線がかち合ってしまった。
 ロイドはわざとらしく一つ咳払いをすると、気になっていた事を口にする。

「フランさんは一人で競売会に?」

 それでやっと本題を思い出したらしく、困ったように少し眉を下げてフランは答える。

「ああ……最初はそのつもりだったのだがね、ミシュラムに来てみれば同伴で行くのが一般的だと聞いてな。一人で行って悪目立ちはしたくないから同伴者を探していたのだが……」

 そこでフランはにやりと口角を上げ、嫌な予感がロイドの背を伝う。

「先程、君達が競売会に参加するかも知れない事を思い出してね。誰か一人に同伴を願えないかとエニグマで連絡しようと思っていた所なのだよ」

 会った時にエニグマを持っていた理由はそれか。
 しかし、とロイドは顎に手を当てて考え込む素振りを見る。

「そうですね……先ず、俺達の方で競売会に乗り込むのは俺とエリィって決めたんで、行くとしたらティオかランディ……」

「俺で良かったらエスコートするッスよ!」

 ロイドが言い終わる前に大きく、勢い良くランディが手を挙げてアピールする。エリィやティオは呆れてため息を吐き、ロイドとワジは苦笑していたがフランだけはふむ、と思案し始める。
 ティオに同伴を頼んだ場合、ランディに同伴を頼んだ場合の警備の者へ対する最適な理由や万が一戦闘になった時の立ち位置や戦闘力。それらを考慮した場合、一番スマートにこなせそうなのはランディの方なのではと結論に達した。しかし、ただ単純に『ランディの事が気になっている』という点も含まれていて。それが単なる好奇心なのか興味なのか、それとも。
 フランはそこで考えを中断し、顔を上げた。

「そう、だな。男女の同伴が多いと聞くし、万が一戦闘になったら力づくで押し通せそうなランディに頼みたい。いいかな?」

「そりゃ勿論ッス!」

 へらりと緩んだ笑顔で、且つ緩く敬礼のポーズを取るランディ。彼を見つめるフランの双眸が細まったがそれも瞬きほどの一瞬で。
 今まで静観していたワジが笑み混じりに言う。

「うん、良いんじゃないかな? お姉さんはこういった催し物のマナーとか理解しているみたいだし……差し詰め、好奇心の強い貴族の娘が出品物見たさに恋人を連れて競売会に来た……そんな感じで行ったら?」

 恋人、そう言われて一瞬心臓が跳ねる。チラリとランディの方を盗み見てみれば彼は「ハハッ、良いんじゃねえの?」と笑っていて。私の気にしすぎか、と小さく息を吐くと「さて」と取り直した。

「……服を調達、と先程言っていたね。まあ流石に堂々と警察の紋章の入ったジャケットを着て行くわけにはいかないか」

 フランは自分の服装とランディの服装を見、唸る。

「私も彼も、服を調達した方が良さそうだ。ランディの分の費用は私が持つから行こうではないか」

 最初からロイド達も服を調達するつもりで降りてきた為これには賛同し、全員で移動してブティックに入る。割と大所帯の為目立つかと危惧したものの店内は空いていて、そこでバラバラと散らばって服を選び始めてしまえば全然目立たなくなり。これなら大丈夫かと、フランも服を選び出した。

◆◆◆


「フランさん、どうッスか?」

「ん。あともう少し……よし」

 シャッと更衣室の前に掛かるカーテンが開き、ドレスに着替えたフランがハイヒールを履いて出てくる。少しふらついているのは、ヒールの高い物に履き慣れていないせいか。
 着替え終えたのはフランが最後のようだった。特務支援課四人は既に礼服に着替え終わって彼女が出てくるのを待っていたらしい。四人……いや、五人からじっと見つめられ、居心地の悪さを感じてフランは胸の前で腕を組む。

「こういった服は滅多に着ないからな。……似合わないのは重々承知しているぞ」

「いやいやいや、そんな事無いッスよ! なっ? ロイド」

「ああ。いつもはズボンスタイルだから珍しいと言うか、新鮮と言うか……兎に角、似合ってますよ」

 ぐ、と喉に物が詰まったかのような呻き声を上げるとフランは目を閉じ、眉間に皺を寄せながら声を少し大きくした。

「……さあ、『黒の競売会』まで時間も無い。役割分担と手順を決めてしまうぞ」


2014/04/21



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