軌跡を描く物語
「……ん?」
請け負っていた仕事の完了報告を終えてグランセルの遊撃士ギルドを出てきたフランは空を舞う『相棒』の姿を認めると大通りを外れ、邪魔にならなさそうな開けた場所に移動しながら片手を上げて居場所を示す。滑らかな動作でフランの傍らに降り立ったのは黒い鷹型の大型魔鳥であり、長年の親友で相棒でもある『フォーゲル』だった。フランはフォーゲルの背を撫でる。
「どうした、此処数日呼んでも姿を現さないと思っていたら……」
フォーゲルが何かを訴えるように鳴く。たったそれだけで意思疎通が出来るのか、フランは神妙な面持ちで頷くと彼の足に目をやった。
「カシウスのおっちゃんに呼ばれててロレントに行っていただと? 君な、幾らグランセルとロレントの距離があるとは言え数日も掛かるなど……は? おっちゃんの指示で遠回りして戻ってきた? 一体その手紙はどれだけ重要機密なのかね」
そう言いながらフランはしゃがんでフォーゲルの足に括りつけられている手紙を外し、立ち上がって黙読し始めた。読み進めていくうちに、どんどんとフランの表情が険しいものになっていく。
内容はカシウスが仕事で帝国に発つ為、リベールで請け負っていた仕事の幾つかをフランに任せたいといった内容だった。詳細は明日にでもグランセル支部の受付であるエルナンの元に届くらしい。まあそれは良い。問題は『あのカシウス・ブライトが動かなければならない程の事が起きている』事についてだ。
カシウス・ブライト。認めたがらないが『一応』フランの師であり、新たな道を示してくれた人。それと同時に『剣聖』の名を冠する、大陸に四人しか居ないS級遊撃士。
一体帝国で何が起きているのか、何が起きようとしているのか。気にはなるもののフランは手紙を読み進めていく。と、フランの眉間に皺が寄った。
「情報部の動向の調査……?」
声を潜め、復唱してみる。なんとも不可解な依頼だが、どうもリベール王国軍の情報部の動きが不穏らしい。通常のギルドの依頼をこなしつつ動向を追い、フォーゲルを介して連絡してくれとの事だった。
大まかな内容はそれで終わりだったらしい。手紙の下の方に書かれた『追伸』を読んだフランは僅かに表情を緩ませる。
「聞きたまえ、フォーゲル。なんとエステルとヨシュアが遂に準遊撃士になったらしい」
ポンポンと首筋を軽く叩きながら言えばフォーゲルは嬉しそうに鳴く。
妹弟子と弟弟子とも呼べる二人の少年少女の顔を思い浮かべる。準遊撃士としてリベールを回るのなら当然このグランセルにも来るだろう。何か祝いの品でも買っておかねばならないな、と思いながらもフランは懐から戦術オーブメントを取り出し、駆動させる。
フランが手に持っていた手紙を真上に放り投げると詠唱の終えた戦術オーブメントが唸り、火球を発生させた。火球は投げられた手紙を飲み込み、消し炭を吐き出す。それが風に流されて飛んでいく様子を見たフランは手帳の一ページを千切ると走り書きをし、フォーゲルの足に括りつけた。
「了解の旨を書いた。カシウスのおっちゃんに届けてくれたまえ。場所は分かるだろう?」
一鳴きし、フォーゲルは飛び去っていく。その姿が黒点になるまで見送り、フランは踵を返して大通りを目指しつつ肩を鳴らす。
「さて、どうやら大仕事になりそうではないか」
不敵に笑い、颯爽と大通りへと足を運んだ。