オリエンテーション


「なあ、君」

「ん?わたし?」

先に行ってしまった女子三名にグループに属さず、今尚階上からトラップで滑り落とされた地点に留まっている赤髪の女子へリィンは声を掛ける。声に応えて女子が振り向くと肩先で切り揃えられたハーフアップの赤髪が揺れる。不思議そうにリィンへ向けられた目は髪の色とは対になりそうな、炎によって燃やされ、そこから出でた灰の色をしていた。
不思議な色だな、とその色に見惚れつつもリィンは本題を切り出す。

「君はどうやって終着点まで行くつもりだ?もし後衛なら俺達と一緒に行動を―――」

「あー、大丈夫大丈夫!」

女子はリィンの言葉を半ばで遮りながら両手を顔の前で振る。そして屈託なく笑いながら取り出したのは篭手とレガースだった。しっかりとした作りの上、かなり使い込まれた様子がある。つまり―――

「久々にコレで体を慣らそうかと思ってねー。だから一人で進もうと思ってたからさっきの子のお誘いも断ったの。そんじゃ、おっ先にー!」

慣れた様子で手早く装備をした女子はリィン達に手を振ると颯爽と駆けて広間を出て行く。
残された男子三人は面食らった様子で顔を見合わせ、誰ともなく息を吐くと自己紹介と得物の紹介を済ませて、先へ進んでいった。



――――――




「―――お?何か揃ってるっぽい?」

隅々まで探索をし、徘徊する魔獣を倒してセピス塊を回収していれば、大分進んだ先のT字路で男子四人と女子三人が丁度居合わせている所だった。
そこに居た七人は赤髪の女子の声のした方―――階上の踊り場を見る。女子は柵から身を乗り出して手をブンブンと振っていたが、二人程足りない事に気づくと手を振るのをやめた。

「あー、いや、揃ってないか。ちっちゃい子とあのアルバレアの奴が居ないね、っと」

「!? ま、まさか……!」

リィンが止めるよりも早く女子は柵を跨いで超えると軽くジャンプをしてあろう事かこちらへ飛び降りる。
受け止めるべきか否か。リィンが逡巡している間に女子は見事な身のこなしで着地してしまっていた。これには他の皆も驚いた様子で。

「な、何というか……」

「あはは……さっきも思ったけど、すごい……アクティブな子だね」

「どうしてそこで普通に階段を使って降りてくるって発想が出てこないのかしら……」

リィン、紅茶色の髪の少年、金髪の少女と続けて呆れるが赤髪の少女は何のそのと言った様子でスカートの端を叩いて直すとニコリと笑って皆に向き直った。

「挨拶してなかったよね。わたし、バレンシア・ソネット!よろしくね!」

『ソネット』の苗字を聞いて眉を動かしたのは青髪の女子と、緑髪の男子だった。

「ほう……ソネットと言えば伝統的な騎士剣術で『ヴァンダール流』と対を為すアルノール家の守護者と聞くが」

「ソネット侯爵家……僕でも聞いた事があるぞ」

女子は何処か訝しげに、男子は警戒心を露にして言う。
前者はバレンシアの得物について訝しんでいるのだろう。騎士剣術を得意とするのなら何故篭手とレガースを付けて近接スタイルをとっているのかと。後者の方も先ほどのアルバレアの男子とのやり取りを思い出してみれば自明の理だ。バレンシアはため息を吐くと男子の前まで行き、仁王立ちする。

「……あのさー、貴族だからーとか、平民だからーって、そんなに大事な事?貴族だろうが平民だろうが、大事なのはその人の『在り方』だと思うんだけどな。少なくともわたしは空の女神と、わたしを育ててくれた姉の名に誓って間違った行いをしてきてないって言い張れるよ」

「ぐ……」

正面から真っ直ぐ彼を見つめながら言えばどうやら彼は根負けしたらしく、視線を外してため息を吐く。それを敗北宣言だと受け取るとバレンシアは右手を差し出した。

「ま、そう言う訳だから!えーと、」

「……マキアス。マキアス・レーグニッツだ」

「そっか!よろしくね、マキアス!」

右手は取って貰えなかったが、目を合わせて貰えなかったが、それでも名前を名乗ってくれた事は小さな一歩となるだろう。バレンシアは行き場を失った右手で頬を掻いたが、思い出したかのように指を鳴らすとリィン達と向き直る。

「ってかみんなの名前聞いてない!」

コロコロと変わる表情に圧倒されながらも皆は各々自己紹介していく。一通り済むとバレンシアは一人で確認するように何度か頷いた。

「ふんふん……リィンにガイウスにエリオット、アリサとエマとラウラね!そんじゃ!!」

「? 我らと共に行かぬのか?」

「二人、まだ名前聞いてないもん」

それは間違いなく先行している男子と女子の事を指しているのだろう。
ビシッ!と片手を上げたバレンシアは挨拶もそこそこに駆けていく。それはさながら―――

「……突風みたいな子だな……」

リィンの零した言葉に、その場に居た何人かがうんうんと頷いた。


2014/10/16



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