夜空に羽撃く勝利への翼


 陽の落ちたエベル周遊道を疾走する姿がある。片方は準遊撃士のエステル・ブライト。もう片方は同じく準遊撃士のヨシュア・ブライト。そのどちらも満身創痍ながらも駆ける足は止めず、まだ見えぬ王都へ急いでいた。
 急がなければ、急がなければならないのに。逸る心とは正反対に疲弊した足は上手く動かず、早く走れない。もどかしげにエステルが叫んだ。

「ああ、もうっ! こんな時にフォーゲルとフラン姉が居てくれたらグランセル城までひとっ飛びなのに!!」

 そんなエステルの頭上を――黒い影が飛んでいった。夜空の暗さよりも一段と黒いそれに驚いたエステルは立ち止まる。彼女を庇うようにして立ち塞がったヨシュアは油断なく腰に下げた双剣に手を伸ばしながら前方を注視した。

「――おや、呼ばれたと思ったのだがね?」

 黒い影の上から『誰か』が此方に背を向けた状態で降ってくる。それはコートを靡かせながら軽やかにエステル達の前方の石畳に着地すると立ち上がり、振り向くやいなやばちっとウインクを飛ばした。
 現れた意外な人物の姿を認め、ヨシュアは安堵の表情を浮かべて警戒態勢を解き、エステルは驚いたようにその大きな目を更に大きくした。

「ふ、フラン姉!? 本物!?」

「失敬な。帝国から全速力で飛んできたというのに」

 呆れながら髪を掻く姿は紛れもなく本物の彼女だ。エステルはフランに駆け寄ると両手で彼女の右手を握り締める。

「フラン姉! グランセル城と女王様が……!」

 フランは空いている左手をそっとエステルの肩に置いた。

「落ち着きたまえ。一部始終は既に聞き及んでいる。……私は先行して様子を伺ってくる。君達はこのまま街道を通って来ると良い。良いかね? 事は急いでは仕損じるとも言う。慌てずに、けれど迅速にだ。ヨシュア、この子が慌てないように見張ってくれたまえよ?」

「はい、善処しますね」

「ははっ」

「もう! ヨシュアってば! ……フラン姉!」

「ああ!」

 和やかな雰囲気が途端に引き締まり、フランは指笛を吹いて彼女の相棒である『フォーゲル』を呼ぶと駆け出し、高く飛ぶ。そして滑空してきた『フォーゲル』の背に飛び乗ると肩越しに振り向き、高く拳を突き上げた。

「エステル、ヨシュア! 君達に空の女神の加護を!」

「気をつけてね!」

「どうかご武運を!」

 王都へ向かって飛んでいく黒い影を見送りつつ、エステルとヨシュアの二人も王都に向かって駆け出した。


2014/10/25



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