幾度、落日を迎えようとも


 フランが亡くなった。
 泣きながらそうエステルちゃんに言われても全く実感が沸かなかった。あの完璧無欠な遊撃士のフランがだぜ? 有り得ねえだろ。そう吐き捨てた。
 だけどクロスベル大聖堂に設けられたフランの墓を見て、触れてみて、やっとじわりじわりと現実が俺を蝕んできた。この冷たい墓石の下にフランが埋まってる。もう二度とフランに会えない、もう二度とあの体温を感じられない、もう二度と言葉を交わす事が出来ないと思うと込み上げてくる『何か』があったが、それは涙などという形では現れなかった。
 所詮、俺はそういう奴なんだろう。何処へ逃げようとも、どんだけ自分を偽ろうとも。愛しい人の死で泣けない薄情者。そう思うと自然と自嘲気味の笑みが込み上げてきた。

「……任務中の事故、っつったかな」

 フランの名前が刻まれた墓石に触れる。返ってくるのが硬い感触と冷たい温度。墓石の前に供えられている花束は報せを聞いて俺よりも先にやって来たロイド達やエステルちゃん達によるものだろうか。
 グ、と墓石に載せている手を握り込む。畜生、何で死んじまったんだよ。呆気なさ過ぎんだろ。ふらりと「任務に行ってくるよ」っつって、帰って来ねぇなんて誰が考えたよ。ああ、くそ……

「……辛すぎんだろ」

 お前の居ないこれからの世界で、これからもお前を想っていくなんてよ。
 ぐしゃりと空いている手で前髪を掻き上げながら、我ながら女々しすぎるだろと自嘲した。







――――――










「………………ああ、その、なんだ」

 クロスベル大聖堂の墓地の最奥。大きな慰霊碑の後ろで、慰霊碑に寄りかかりながら座わっている銀髪の女性は気まずげに頬を掻いた。その女性は現在名実ともに死亡届けの出ている筈の人物で。
 彼女は腕を組み、唸る。まさか君の前にある墓の中は空だとは言えない。五体満足でピンピンしているぞとも言い出せない。けれどこのままだんまりを決め込んでしまえば状況は悪化する一方で。暫し悩み、フランは意を決したように慰霊碑の後ろから僅かに顔を出し、誰も埋まっていない墓石の前で依然と佇んでいる彼を盗み見た。
 フランは意を決したように表情を引き締めると立ち上がり、慰霊碑の正面へと回り込む。その時にパキリと地面に落ちていた枯れ枝を踏んで音を立ててしまい、微かな音にも拘わらず、耳の良い彼には音が届いてしまっていたみたいだ。
 墓石から顔を上げて慰霊碑を見上げたランディは降りてくる人物を目に留め、言葉を失う。

「…………その、何というか、だな」

「はは……まじかよ」

 目の前まで降りてきた姿にランディは脱力したように笑い、フランはごほんと咳払いすると気を取り直した。

「まずは謝罪しよう。本当にすまなかった、心配を掛けて」

「ああ、全くだぜ」

「次に弁解をさせてくれたまえ。……そもそも此処まで大事にするつもりはなかったんだ、それもこれもカシウスのおっちゃんが……」

 曰く。
 『幻焔計画』の情報を得る為、今後の『身喰らう蛇』の動向を掴む為に『表向きに死んだ事』にすると言うとんでもない手段を使い、その裏で大陸中を飛び回っていたらしい。しかし途中でその死亡届をカシウスが取り下げる手筈になっていたのだが、幾つかの有力な情報を手に入れていざ戻ってみれば「悪い、軍事が忙しくてな」と呵呵大笑されて慌ててフラン本人が届け出を下げに行ったとの事。
 フランの溜息と呆れ混じりの説明に、ランディは呆れたように頬を掻く。

「……と、言う訳だ」

「ったく……なんつー作戦を立案してんだよ」

「し、仕方がないだろう!相手はあの『結社』だぞ?生半可な気持ちで挑めば本当に死にかねん」

「――だから誰にも言わずに消えたってか?」

 僅かにランディの声が低くなり、フランは言葉に詰まる。

「……本当に、すまなかった。ごめんなさい」

「もう二度としないか?」

「あんな作戦は二度とごめんだ……ああ、分かった、しない。しないったら」

 両手を胸の高さで上げ降参のポーズを取るフラン。
 と、ランディの手が伸びてきて引っ張られ、そのまま腕の中に収まったフランは目を白黒させたが、目を伏せると彼の背中に手を回した。

「……ただいま、ランディ」

「おう。お帰り、フラン」


2014/12/11



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