追葬
「――静かで、穏やかな場所だな」
立ち入りが禁じられているハーメル村の慰霊碑の前に、どういう訳かポツリと立っている姿があった。その人物は手に持っていた供花を慰霊碑の前に供え、数歩下がると瞼を伏せて黙祷を捧げる。
「……済まなかったな、無理を言って村への立ち入りを許してもらって」
「何せ他でもないフラン君の頼みさ、気にしないでくれたまえよ」
目を開けて謝辞を述べればフランの背後に現れた緋色の礼服の青年が笑う。そして青年――フランのハーメル村立ち入りの許可を手配したオリビエ・レンハイムは気障っぽくポーズを決めると前髪を掻き上げた。
「まあ、どうしてもキミがボクへお礼をしたいと言うのなら止めやしないさ。熱いベーゼの一つや二つ、受けようじゃないかっ!」
「聞こえないなあ」
「フラン君のいけず!」
「はっはっは」
肩を揺らして笑い、フランは振り向いてオリビエを見やる。
「有難う、オリビエ。リベールを発つ前に此処へ寄れて良かったよ」
真面目な表情でそう言えば、オリビエも居住まいを正してフッと微笑んだ。
「言ったろう? 仲間であるキミの頼みなら助力は惜しまないと。しかし、クロスベルか……うーん、寂しくなるねぇ」
「リベールに残るのならまだしも、君は帝国に戻るだろう。何を言っているのかね」
腕を組んでじろりと見れば、オリビエはわざとらしく笑う。
「帝国と言えば――『あの話』の件、考えてくれたかい?」
「ああ……」
そう言えば『そんな話』を打診されていたな、とフランは腕を組んだまま眉根を寄せて渋い顔を作った。頷くのは容易いが決めあぐねている、と言った様子だ。
「……もう少し時間が欲しいな。何せあの魔都には『蛇』が潜んでいる。あれの出方を図るまでは保留で構わないだろうか?」
「フフフ、構わないさ。まだ時間はあるからね。クロスベルでゆっくりと考えたら良い」
「さて、あの地でゆっくり出来るかが問題だな」
フランの答えにああ、とオリビエは思い出したかのように頷いた。
「ああ、確かリベールからの応援と言う形で行くのだったかな? 人気者だねぇフラン君は」
「そう思うのなら、私への仕事を増やさないで貰いたいところだが?」
「はっはっは」
オリビエは笑い、変わらない彼の様子にフランは苦笑をしながら頭を掻く。
そしてフランは慰霊碑の向こうの広大な空に目を向け、指笛を吹くと己の相棒である魔鳥のフォーゲルを呼んだ。飛んできてフランの傍らに降り立ったフォーゲルの背に乗り、高くなった位置からオリビエを見下ろす。
「おや、国境まで送ろうと思っていたのに。キミをエスコート出来なくて残念だ」
「何、皇子のお手を煩わせる事が申し訳ないだけさ。それではまた」
「ああ、何かあった時は連絡させてもらうよ」
互いに手を挙げ微笑み合い、二人は同時に背を向けて別々の道を歩きだした。