振り払った残像、そして
不自然に加わる重力に抗って大きく後方に跳び、フランは上から押し潰さんと落下してくるオブジェクトを避ける。無事に着地をしたが、各々が別方向に跳んだため、ルーファスとラピス、スウィンとナーディア、レン、そしてフランと見事に分断されてしまった。
着地した足場が動き、四グループと別れてしまったルーファスたちを更に離す。そうして後方に現れた扉が口を開けた。まるで、こちらに来いと誘うように。
「随分な歓迎ではないか、《博士》」
思わず軽口が口を滑る。しかしローゼンベルク工房をこのように大改造し、今もどこかで見ているであろう第六柱・ノバルティスの返事はない。
立ち上がり、背後に現れた扉の奥を見やる。人気は感じられず、機械の駆動音などもしない。入った瞬間に襲われるなどの凶悪なトラップはなさそうだが……。
いいや、と考えを改める。一人ひとり分断しない辺り、何らかの思惑があると思われた。特にスウィンとナーディアを共にしたままなところが引っかかりを覚える。彼の性質を考えれば、なんらかの『実験』に加担させられているとも考えられて。
上等だ、とフランは足を進め、扉を潜る。
入った先は広大な部屋だった。天井が高いところを見るに、此処で大きな《神機》を作っていたのかも知れない。
辺りを見回してみるが、特に何も起こらない。ひょっとして本命の実験対象はルーファスたちで、自分は邪魔だったから分断されたのかも知れないと考えた時──フランの背後で翻る赤と橙を視界の端に捉えた。
刹那。不可視の巨大な手が現れて叩き潰したように『ソレ』がけたたましい音を立てながらひしゃげ、一瞬で跡形もなくバラバラになってしまう。とどめとばかりに《外の理》で炎を発生させ、『ソレ』は何か行動を起こす間もなく、何かを発する間もなく炭へと化した。
「──博士」
ゾッとする程、殺意の乗った低い声。どこかで見ているであろうノバルティスは、今この場に居なくて良かったと思っていることだろう。
ブゥン、と無機質な音がし、ノバルティスのホログラムが現れる。
『おや、私からのプレゼントは気に入らなかったかね? 君へと合わせた特注品だったのだが』
心の底から不思議だ、というような声。
「貴様と言いカンパネルラと言い。人の神経を逆撫ですることに関しては一級品の手腕をお持ちのようだ。……覚えておけ、博士」
腰に手を当て、フランが睨む。
「──『次』は無い。まだ生きたまま六柱でいたいのなら、二度と同じことをするな」
『おお、怖い。私もまだ命は惜しいからね、ここは君の言う通りにしようじゃないか』
肩を揺らしてノバルティスの幻影は笑う。それほどまでにフランが感情を出したのが面白かったのだろう。
「しかし」ノバルティスは続ける。
『本当に壊して良かったのかね? アレは本物と遜色ない思考をするようにプログラミングしてある。もし必要なら、急いで二体目を拵えるのも──』
と、そこまで言った時。部屋に配置してあったホログラムを映す機械に神槍が突き刺さり、あっけなくノバルティスの幻影はゆらりとかき消えていく。
神槍を虚空に消す。どこまでも忌々しい男だ。
ノバルティスが操作したのだろう。入ってきた扉の反対側の壁に扉が生まれる。そこを通って出ていけということか。
炭化したソレに一瞥くれることもなく、フランはその部屋を後にする。
──ああ、本当に忌々しい。