『カーネリア』
『キルシェ』のオープンテラスで優雅に紅茶を飲みながら本に視線を落としている女性はまた一枚、また一枚とページを捲っていた。タイトルに書かれている巻数と残っているページの厚さから大分終盤のように思える。此処、帝国が舞台の物語―――『カーネリア』を。黙々と読み耽っていると空いている反対側の席に誰かが腰掛ける気配がした。彼女は本から目を上げず、その者の名を呼ぶ。
「遅かったでは無いか、トビー」
「フラン、その呼び方は止めろ……って!?」
ガタガタと男は席を立つと身を乗り出し、フランの読んでいた本をひったくった。
「あっ、おい、何をするのかね。折角今、物語のクライマックスシーンでトビー少年がシスター・カーネリアに一世一代の愛の告白をする所だったと言うのに……」
「そんなシーン最初っから無いだろ!!勝手に捏造すんな!!」
荒々しく閉じ、本を持ち主に乱雑に投げて返す。そして男は再び席に座り、仏頂面で珈琲を頼んだ。フランはクツクツと喉で笑った後に懐から戦術オーブメントを引っ張り出し、机の上を滑らせて彼に渡した。それを手に取り、男は蓋を開けて中身を確認し出す。
投げ返された本を足元に置いておいた鞄にしまい込み、フランは机の上で両手を組む。
「最近不調でね、それでどうだ?トヴァル。すぐに直りそうかね?」
「またお前さんは……無理な駆動させて強引にアーツ発動させただろ」
「ははは」
男―――トヴァルのジト目も何のその。軽く受け流すとフランは紅茶を一口啜った。
「うーん……」
短い金髪の髪をかき乱すように掻いてトヴァルは唸り、運ばれてきた珈琲そっちのけでオーブメントをいじる。
「お前さんのオーブメントは風属性だから……あー……」
「もう少し駆動時間を短く改造してもらえないだろうか」
「これ以上!?」
「まだ遅い。もう少し行けるだろう?」
君の技術なら。そうニヤリと笑えばトヴァルは一瞬きょとんとし、仕方ないと言いたげに眉を下げてため息を吐いた。この友人が己に無理難題を頼む時は大抵この後大仕事が入っている時だからだ。そしてトヴァル自身なら出来ると確信した上での問い。ならば応えてやるのが礼儀と言うものだろう。
「……五日だ。五日でやってやる」
「流石は魔法使い。アーツが得意な青年トビー君」
うるせ、と言ってトヴァルは珈琲を一気に飲み干し、フランのオーブメントを懐にしまって『キルシェ』を後にした。