未観測世界にユメを観て
――ユメを見た。酷く物悲しい夢を。
側に居るはずのフランが、側に居ない夢。居ると言えば居るのだが、その手を掴んで引き寄せることは、空に浮かぶ月を撃ち落とすほどに難しくて。
行くな、と言う。側に居てくれと懇願する。だけど長く綺麗だった髪を肩先で揺らしながら、寂しげにフランは笑う。
――無理だ、と。もう道は分かたれてしまったのだと。
あまりにも儚く笑うから、俺は強引にその手を掴んで抱き寄せ、連れ込んだホテルでその体を暴いた。そんなことをしたって、こいつを繋ぎ止められるはずがないと頭の片隅で理解はしながらも。
そうして迎えた翌朝。事の済んだ直後は俺の隣で寝ていたフランは、まるで最初からそこに居なかったかのように綺麗に姿と痕跡を消していて。
――もう二度と、道が交わることはない。その事実に胸がじくりと痛む。
結局俺は大切な人も守れず、帰る場所にもなれず終いなのかと後悔して――
「――ッ!」
布団と跳ね除けてガバリと飛び起き、荒い息を整える。……何か途轍もなく嫌な夢を見た気がする。
びっしょりと掻いた寝汗を拭い、傍らに手を置いてふと気付いた。
――フランが、居ない。
昨日の夜に致した名残りはあるが、幾分か綺麗にされたベッド周りに何かデジャヴを覚える。どこに行ったのかと慌てて部屋を出ようとしたその時、ガチャリと玄関の扉が開いた。
うん? と気の抜けた声がする。
「ランディ? そんな格好で何処に行くつもりだ?」
「……フラン……?」
カジュアルな服に着替え、《モルジュ》と《タリーズ商店》の紙袋を抱えたフランが不思議そうに俺を見ていた。
そこでハッとする。下は穿いているが上には何も着ていない。
朝飯でも買いに行ってたのだろう。俺を押し戻して中に入ったフランは近くの机に荷物を置く。
「取り敢えずサンドイッチと惣菜パンを買ってきたから、好きな方を選ぶと良い。飲み物は――っとと」
紙袋から物を取り出して整理するフランを後ろから抱き締める。首筋に顔を埋めると、いつもフランからする爽やかな香水の匂いがした。
馴染みのある、落ち着く匂い。緩やかな体温。柔らかな体。それらが此処にあることに酷く安堵を覚えた。
「……なんでこういう時に限って朝早ぇんだよ……」
「えっ? うん? うん……すまない……?」
いつもは寝坊するくせに。俺が起こすまで寝てるくせに。畑違いな恨み言を吐けば、困惑しながらも笑う気配がした。
回した手に、フランの手が重ねられる。
「何だ、夢見でも悪かったのか?」
「……おう、まあな」
「そうかそうか」
回した手をポンポンと叩かれる、まるで赤ん坊を宥めすかしているようだ。
「ほら、食べてしまおう。君も私も、午後からは仕事だろう?」
ポン、と最後に手を一叩き。俺を引き剥がしたフランが向き直り、笑顔を浮かべる。
その笑顔を見て、やっと俺はホッと息が吐けるのだった。
「おはよう、フラン」
「ああ、おはよう。ランディ」