空の女神が微笑むのは
明くる日の夢幻回廊。とある一角の席でユウナはむむ、と難しい顔をしていた。
暇だからカードゲームでもしようか、と声を掛けたところ、その手のゲームが好きな者や暇な者が集ってきてくれた。それ自体はとても嬉しい、嬉しいのだが――
「ん? どうしたユウナ、君の番だぞ」
対面に座り、カードを手にしたフランがにこやかに言う。
……強い、とんでもなく強いのだ、カードゲームが。ポーカーでも大富豪でもババ抜きでも、とんでもなくフランは強い。
最初は勿論たまたまだと思った。これは運の絡むゲームなのだから。しかし一勝、二勝、三勝、四勝……と回を重ねても一向に勝てず。イカサマを疑ったが、それなら目敏いアッシュやクロウ辺りが気付いてもおかしくないし、そも彼女は遊撃士だ。そんな姑息な手段をする筈もない。
だから純粋に運、なのだろう。それが少し悔しくて、どうしても勝ちたくて、どうしてももう一戦と言ってしまう。
いま遊んでいるのはポーカーだ。しかしユウナの手元には良いカードが来ておらず、どう足掻いても役が揃わず負けになるだろう。
仕方ない、次のゲームは……とユウナが考えていると、視界の端で白いコートがはためいた気がした。パッと顔を上げれば、がしりとフランの片腕を掴んでいるリィンが居て。
リィンがにこりと笑っているのを見て、ユウナの背筋にぞわりと寒気が走った。彼がこうして笑っている時は、大抵『何か』ある時だ。
「フラン教官。イカサマは感心しませんね」
「えっ……!?」
まさか、本当にイカサマしていたのか。
驚いてフランを見れば「バレたか」と言わんばかりに笑っていて。
「昔の君だったら見抜けなかっただろうに。成長したなあ、リィン」
「えぇ、悪い教官と悪い先輩に揉まれたお陰で」
「おい言われているぞクロウ」
「いやオメーもだよ」
いやいやとクロウが手を振る。
観念したフランは、リィンに離してもらった腕の裾から何枚もトランプを出して机に広げた。側にいたクロウたちが見抜けなかった辺り余程素早く、そして狡猾に仕掛けていたのだろう。
はあ、とリィンが腰に手を当てる。
「本当にお上手ですね。俺も注意深く見ていないと気付けませんでしたよ」
「お褒めに預かり恐悦至極。まあ、知っていて損ではないスキルだからな」
ユウナが首を傾げる。
「遊撃士なのにですか?」
「意外と使い道があるぞ、このスキルは。賭け事に傾倒しすぎた夫に歯止めを掛けるため、打ち負かしてくださいなんて依頼もあったからな。向こうに空の女神が微笑んでいたら依頼達成が出来ないだろう? だから仕込んでおくのだよ」
机に散らばったカードを集め、シャッフルする。その手際の良さはカジノのディーラーもかくやという手捌きで。
「要は手品と一緒さ。話術、視線誘導、下準備……そういったものを組み合わせて騙すのだよ。コツさえ分かれば、後は練習次第で習得できる」
「へぇー……」
シャッフルし終え、フランは机の上にズラリと綺麗にカードを並べる。ニヤリ、と笑い、
「どうだ、リィン。一戦、私と」
「では、イカサマなしの勝負でお願いします」
ユウナと席を代わり、リィンがフランの対面に座る。これは面白くなりそうだと観客を呼ぶクロウの声を耳にしながら、フランはカードを纏めて配り始めた。
「ところで、」
ちらりとユウナが離れた席へと目をやる。
「あそこで大勝ちしてるバレンシアさんは……」
「あれはマジで強運なんだよ……」
そう呟いたクロウの背中は、どこか哀愁が漂っていた。