春を待つ


 帝都の街を歩く道すがら。女性と擦れ違った瞬間にふわり、と華やかな香りがランディの鼻孔を擽り、振り返って擦れ違った女性を目で追う。当然その後ろ姿は彼女と似ても似つかないのだが、使っている香水の品かメーカーが同じなのだろう。少し懐かしくなる香りがして。
 懐かしいと思う程、フランと会ってないのか。再認識してしまった事実に自嘲の笑みが込上げて来た。そう思ってしまう程、彼女に入れ込んでいる自分が居る。

 ああ、春はいつ来るのだろうか。

◆◆◆


 ノーザンブリアの街中を歩く最中。赤髪の青年と擦れ違い、一瞬足を止めたフランは振り返って青年を目で追った。
 居るはずのない彼の姿を幻視している自分がいる。今頃彼は遠い帝国の地で頑張っている筈なのに。頭を動かし、帝国のある方へと目を向ける。
 通信も手紙も情報局に筒抜けの今、少しだけ声を聞くことすら叶わない。仕方ないと理解していても、気持ちまでは変えられず。

「……会いたい、な」

 今は遠き春を想う。


2020/06/05



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