始線の先
「出向中はZ組が使ってる学生寮を使えと言っていたが……ああ、此処か」
小さなメモに書かれた地図と照らし合わせながら歩いているとZ組の面々が寝泊りしているという第三学生寮へ辿り着いた。貴族生徒の利用している第一・第二学生寮に比べると些か質素でこぢんまりとしているが、フランとしては此方の方が居心地良さそうに感じた。
いつまでもぼんやりと立ってはいられない。早速中に入ろうとしてフランが扉に手を掛けようとすると、どういう訳かドアノブに触れる直前なのに勝手に扉が内側へ開いていく。まさか人に反応して自動で開く仕組みでもあるまい、と僅かに警戒しているうちに扉は完全に開ききった。開かれた扉のその奥、メイド服に身を包んだ女性が背筋を伸ばして立っているメイドの姿が見えた。訝しみながらも入るとメイドが優雅に一礼。
「お待ちしておりました、フラン様」
フランは寮内に一歩足を踏み入れた場所で立ち止まると足元に荷物を置き、お辞儀をしているメイドに視線を送った。僅かに目を細め、その姿を観察するように。或いはメイドの素性を探ろうとするように。
「初めまして。ラインフォルト家より参りました、この第三学生寮の管理人を務めさせて頂いているメイドのシャロンで御座います。出向中のフラン様のお世話を仰せつかっておりますので、御用の際は遠慮なく申し付けてくださいませ」
「―――初めまして、か」
フランは腕を組み、その双眸をより細めた。対してシャロンは変わりなく、朗らかな笑みを浮かべている。
「本当にか?」
「ええ、その筈ですが」
「……不思議だな。君とは以前『帝国国内の何処か』で会ったような覚えがあるのだが」
「でしたら、会長のお付として向かわれた際に何処かですれ違ったのかも知れないですね」
それが当然の事、と言外に語るように。にこにこと、笑顔で語られた言葉にフランはフ、とに皮肉めいた微笑を浮かべた。
「―――そうか、ならきっとどこかですれ違ったのかも知れないな」
フランは荷物を抱え上げ、奥に繋がる階段に視線をやる。
「私の部屋は三階だったかな?案内をお願いしたい。……ラインフォルトのメイドのシャロン・クルーガーさん?」
「ええ、ご案内致しますね。Z組特別顧問のフラン・カストール様」
先導するシャロンの後ろを歩きながら、冷ややかな目でフランはその背を見つめていた。