#03


「……っ」

ぞわ、と毛が逆立つような感覚を覚えて私は新都の方角を見やった。煌々と輝く摩天楼のような街の中の、とある高いビルに目を凝らす。魔力で強化した視力でやっと視認出来るその場所で、赤い弓兵は弓を引き絞っていた。矢と番えているそれは―――

「マスター、士郎!その場から撤退を!」

「えっ、何?キャスター、聞こえないよ?」

マスターは『見えていない』。彼の行動を、彼のしようとしている事を。
咄嗟にバーサーカーを挟んだ向こう側に居るマスター達を見る。遠坂凛は隠れた、士郎はセイバーの手を引っ張って駆け出している、マスターは―――アインツベルンの召喚したバーサーカーに攻撃をする為近づいていた為、『彼』の攻撃の余波を食らう位置に居る。

「間に合え―――!」

数枚の札を―――ルーン数文字から為る『結界』をマスター目掛けて投擲した。それは彼女の前で展開され、上級宝具すら凌ぐ大結界となる。それを見届ける間もなく私もその場から撤退する。背を向け、大きく跳躍したその瞬間―――ゴウ、と爆撃がバーサーカーを中心にして巻き起こった。
爆風の余波を受けながらも着地し、新都の方角を鋭く見る。そして見た。『彼』が、放った弓を下ろしながら口角を歪めている姿を。

「……アーチャー、貴方は……」

自分が今、何をしたのか理解しているのか。いや―――理解した上で放ったのか。
彼が何を思い、どうして動いているのかが分からない。けれど、一つだけ確かに言える事がある。
例え彼が此度の聖杯戦争でどう動こうとも、バーサーカーごと、セイバーごと衛宮士郎を葬ろうとしても、―――私の敵になったとしても。『私』の願いだけは変わらないと言う事だ。

「マスター、無事ですか?」

「う、うん。キャスターの術で無傷だってけど……って!士郎だよ士郎!」

早く士郎の手当しなきゃ!と私の手を掴んで走るマスターに釣られ、私は新都方面から視線を外した。

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