虚像ロジック


「名も無き魔術師よ、お前は何故生きている」

人気の失せた夜の教会内。神父は厳かに言う。対象は少し離れた前方で立っている女魔術師。此度の聖杯戦争で『魔術師』枠で召喚された英霊であり、色々な意味でイレギュラーの存在。キャスターの女は拘束具で目元を隠したまま僅かに口角を上げて笑う。

「……問いの意味が分かりかねますね、言峰綺礼。私は英霊。死後の魂が座に導かれ、現代に起きている現象に過ぎない。それを生きているなどと」

「いいや、お前は生きている。死はまだ訪れていない。『本当の意味』では、な」

笑みを消し、キャスターはじっと言峰を見やった。その表情に僅かに警戒を滲ませる。

「……確かに、私は未だ本当の意味で死を迎えていないのでしょうね。私はまだ死ねない。彼が、本当に胸を張って自分のしてきた事が間違いではなかったと思えるその瞬間が訪れるまでは」

「道化と自覚していながらまだ続けると?その行いが破綻していると気づいているのかね?」

「それは、勿論」

キャスターは己の胸に手を当て、確固たる意志をもって言う。

「私の死後はその為だけにある。幾度の戦場と世界を越えようともこの想いだけは不変でいられる。貴方には分からないでしょう、言峰綺礼。愛を理解出来ない破綻者」

やはり、とキャスターは脳裏を掠めた解を隅へ押しやりつつ、冷静さを保ちながら続けて口を開いた。

「貴方は変わらない。当然と言えばそうなんでしょうが」

懐かしくも何ともないが、とキャスターはべっと舌を出すと言峰に背を向け霊体化した。キャスターの声が冷えた教会内に木霊する。

『それでは失礼します。言峰綺礼。―――貴方にだけは聖杯を掴ませない』

キャスターの気配が消え、シンと静まり返る教会内。その中で言峰は僅かに口角を上げた。

「―――フ。物言いだけは変わらんな。いや、成長して達者になったか?」

後ろで手を組み、言峰は踵を返すと教会の奥へと戻っていった。
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