『証が欲しい』


『証が欲しい』
幼馴染みと似た風貌の魔術師が言った。それは何となく思いついたから言ったとでも言うような、けれどずっと抱えていた思いを吐き出したようにも見えて。士郎は箒で落ち葉を掃く手を一度止め、縁側に座る彼女を見た。

「キャスター、いきなりどうしたんだ?」

「少し、そう思っただけですよ。私は……いえ、『私達』は聖杯戦争の為だけに喚ばれ、現界している『事象』に過ぎません。誰かに覚えていてくれていても、時が過ぎればその人の声も、仕草も、顔すらも忘れてしまいます。そして最後にはその人が居た事すら忘れ去られてしまう。だから、」

「証が欲しいのか?」

キャスターは縦に首を振る。士郎は箒を持ったまま思案し始めた。
この聖杯戦争が終わり、何年、何十年経った後もセイバーやキャスター、果てにはアーチャーやランサーといった彼らを覚えていられる事が出来るのかと。いや、と士郎は首を振る。面影や出来事は覚えていられるかも知れない。けれど声は?やり取りは?顔は?となるときちんと覚えていられる保証が出来ない。故に首を縦に気安く振れなかった。
なんと答えるべきか、と悩んでいると、ふと一つの物の存在を思い出した。キャスターに断ってから箒を蔵にしまいに行き、縁側でサンダルを脱いで家の中に戻っていく。暫くして縁側に戻ってきた士郎の手に握られていたのは古ぼけた一眼レフのカメラだった。興味深げにキャスターは士郎の手元を見る。

「衛宮士郎、それは?」

「切嗣が遺してくれたヤツでさ、これでキャスター達を撮っておけば『そこに居た』って証は残るんじゃないか?」

「あ……」

キャスターは意外そうに目を瞬く。

「あ、でも英霊って幽霊と似たような類になるのか……?もし撮って写らなかったら……」

どうしようか、と眉間に皺を寄せる士郎。その姿がどうしようもなく愛しく思えて。キャスターは口元に手を当てて笑みを零す。

「ふ、ふふっ……!」

「な、何だよキャスター。悪かったな、単純で」

「い、いえ……貴方はちゃんと私達の事を考えていてくれているのだなと。他のマスターのように『聖杯戦争を勝ち抜く為の道具』だと考えていないのだなと、嬉しく思えて」

「そりゃ、セイバーだってキャスターだって実在した人間だろ?だからなんでキャスターが嬉しいのかイマイチ分からないが……」

照れ隠しなのか頬を掻く士郎。

「まあ、取り敢えず試しに一枚撮ってみましょう。それから遠坂凛なども呼んで……」

「そうだな、イリヤや桐茴も撮りたがるだろうし……」

「アーチャーも呼ばねばなりませんね」

「ぐ……遠坂が来るとあいつも来る事になるんだよな……」

嫌そうな顔をする士郎を見、キャスターは小さく笑う。そこをチャンスだと見た士郎はサッとカメラを構えるとシャッターを切った。パシャリ、と鳴るカメラ。キャスターは一瞬驚いた表情をしたが、表情を戻すと士郎を手招く。何だろうと思い近寄ると隣に座るよう示され、従って座る。と、カメラを取られ肩を引き寄せられた。ぐっと近くなるキャスターの横顔に耳が赤くなるのを感じているとカメラが鳴った。しまった、

「……仕返しかよ、あんた」

解放されてジト目で見やれば勝ち誇った表情のキャスターが映る。

「ふふん、油断大敵ですよ、衛宮士郎」

そう笑ったキャスターの表情は、やはり大切な幼馴染みの浮かべる表情と似ていて。士郎も表情を崩し、笑った。
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