目眩とワルツと
「お早う、キャスター。朝早いんだな?」
縁側を歩いてきたキャスターに、土蔵から戻ってきたばかりの士郎は縁側に上がりながら声を掛ける。すると彼女は暫し驚いたように体を硬直させていた。不思議に思い、士郎は再度声を掛ける。
「……キャスター?」
「え、あ、はい。お早う御座います、衛宮士郎。鍛錬ですか?」
暫し呆然と、或いは魅入るようにしていたキャスターはハッと我に返ると挨拶を返した。
「ああ。それで今から朝飯の支度ってところだ」
「私も何か手伝いを……」
「いや、桜と桐茴が手伝ってくれるから大丈夫だぞ。キャスターはのんびりしててくれ」
「……そうですか」
心無しかしょげるキャスター。目元が見えないので雰囲気とか、声色で判断するしか無いのだが。
どうもキャスターが落ち込む姿を見るのは忍びない。しょうがない、と肩を落とした士郎は一つ提案を出した。
「……分かった、豆腐だ。豆腐が足りないから買ってきてくれ」
「! 分かりました。急いで買って参りましょう」
「別に急がなくても良いんだがな……」
途端、キリリとし始めたキャスターに思わず笑みをこぼす。と、じっと彼女に見つめられている事に気づき、居心地悪そうに士郎は頬を掻いた。
「えーと……何か付いてるか?俺の顔に」
「あぁ、いえ。大丈夫ですが……―――貴方の笑顔が眩しいなと。好きですよ、その笑顔」
「いっ……!?」
では買ってきますねー、なんて言いながらするりと士郎の脇を走り抜けていくキャスターの声を聞きながら、士郎はその場にしゃがみ込んで片手で顔を覆う。
「……心臓に悪いだろうが」
耳まで赤くした士郎はなかなかやってこない士郎を不信に思った桜と士郎がやって来るまで縁側でしゃがみこんでいた。
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