彼との時間は
いつもあの場所。


部屋の扉の下に差し置かれた小さなメモ。
自室に籠もっていたナマエは、そのメモを心待ちにしていた。
彼が、帰ってきた、と。


『……っ』


慌ててそのメモに目を通し、書かれた内容に心震わせながらいそいそと身仕度する。


『何日ぶりかな…』


シャワーのコックをひねり、体の曲線を辿って流れていく汗と水をぼんやりと見つめた。
全ての汚れを落とし、タオルで軽く髪の毛を拭く。
ふわりと薄く香る匂いに胸がきゅう、と締め付けられる。
彼の、におい。


『早く、逢いたい』


そう呟いて部屋を後にし、ある目的地へ向かう。
目的地に着き、その大きな扉を開く。シン、と静まり返り、古びた書物の匂いのするその場所で、ナマエは小さく問い掛けた。


『……誰もいないよねー?』


その問いは空気に消え、ナマエは大きな扉を潜り抜けた。


『…どこにいるのかな…』
「ココ。」
『ひゃあっ!』


突如背後から抱き締められ、思わずおかしな声がもれる。


「悪ィ。驚かせちまった?」
『少しだけ!…逢いたかったよ、シグ』
「俺もだ。」


ナマエは体の向きを変えてシグバールの背中に手を回し、これでもか!というくらい、ぎゅうっと抱きついた。


『もー何日逢ってないっけ…?気が狂いそうだったよー…』
「二週間くらいか?」
『多分…』
「淋しかった?」
『う、ん…』


顎に手を掛けられ、上を向かされる。


「したい。」
『浮気しなかったでしょーね』
「他の女と?冗ー談だろ。ナマエのカラダじゃないと俺イけないってハナシ。」


シグバールに抱き上げられ、隣の棚に隠れた机の上にナマエは降ろされる。


『シグ…何?』
「我慢出来ねぇ。」
『えっ、ココでするの!?』


驚きの声をあげるが、シグバールの手がナマエのコートの装飾具を解く。


「おう。たまには気分変えて他のトコでヤる、って言うシチュエーションも燃えると思うけど?」
『こ、コラコラ!へっ、返事聞く前に脱がしてどーすんのー!』


シグバールはコートのファスナーを降ろしながら、口を塞ぐ様に唇を重ねた。


『ん、ふっ……う』
「…ナマエ」


ゆるゆると舌が体を這う。弱い個所を吸い上げられ、思わず体が跳ねる。


『ッあ…』
「跡、ねぇなやっぱ。」
『二週間も…ご無沙汰してたら、ね…』
「じゃあ今度はもっと濃くつけてやるよ」


見える所にな、と耳元で囁かれ、その低い声は体に刺激を与える。


『シ……グ…』
「んな、物欲しそうなカオ、すんなって。」
『してな……っ』
「めちゃくちゃに犯したくなるだろーが」


革製の手袋を外し、シグバールは自身の指をぺろりと舐めた。


『シグ…?』
「少し慣らさねぇと傷つけちまうしな」
『バカ……っん!!』


悪態を吐いたと同時に秘所に侵入する異物感に嬌声を洩らした。


『はっ、ア……ぁ…』
「ナマエ、締めすぎ。」
『あ、ん…だって……ッ』
「早く突っ込みてぇ。」


にやりと笑う顔には余裕の笑いはなく、中に侵入した指を掻き回した。


『ふぁっ…あ、やだ…ちょっ…』
「イーイ顔…。」
『みっ、ないで……』


あまりにも恥ずかしく、ナマエは両手で顔を覆うが、シグバールの開いている片手でいとも簡単に押さえ付けられてしまう。


「隠すな。全部見せろ。俺に感じてんのも、イくトコも。」
『ひぁッあ!!や……だぁっ!!』


シグバールの低い囁きに加えて耳に侵入する暖かい熱に感じ、びくんと体を反らして達した。


『あ……ぁ……』
「久々に見た。ナマエの感じてる顔。想像するよかやっぱ本物がイイ。」


蜜で濡れすぎたソコに屹立したシグバール自身をゆっくりと挿入する。達したばかりのソコはねっとりとシグバール自身に絡み付く。


『っあ―――ぁ…ん、』
「ヤっベ……」
『無、理…苦し……っ』
「浮気してねぇ様だな」
『へ、えっ?なに…?』


快楽に集中しすぎて、答えようと出した声が裏返る。


「ナカ、締めてるからよ。」
『バッ……バカ…!』
「悪態つく元気があるんならイイ声で鳴けよ?」
『ひゃ…っア……!』


腰を少しだけ動かすと結合部からは卑猥な音が響く。


『あっ、ヤぁ…ん、シグ…っ』
「もっと…」
『な、ぁに……っ』
「もっと俺の名前呼べ。俺に、感じろ。俺に溺れろ…ッ」
『シグ…っ!シグ、ぅ……』


体のぶつかり合う音。熱を持った吐息。与えられる快楽に二人は酔い痴れる。


『シグ………す』


"好き"。そう言い掛けた瞬間


「何故お前がついて来る!」
「ゼクシオンはよくて私は駄目なのか」
「五月蝿い!」


突如聞こえた声に二人は固まる。それはナマエの声でもなく、シグバールの声でもなかった。


「まぁまぁ。ヴィクセン、落ち着いてください」
「ゼクシオン、私はこんなヤツと一緒に同じ空間にいるのは嫌だ」
「非道いな、ヴィクセン。」
「その花びら!そして存在自体が邪魔だ!」


ぎゃあぎゃあと聞こえる声に、ナマエは耳を傾けていた。


『…ゼクシオンとヴィクセン、マールーシャ達みたいだね』
「ああ」


二人は小声で話ながら、三人が書庫を出るのを待った。
が。


「たまには交流を持ち入り、お互い親睦を深めて…」
「出来るか!」


素早くツッコミを入れるヴィクセンにナマエは笑いそうになった声を押し殺す。
その状況に何を思ったか、シグバールは止めていた腰の動きを再開させた。


『ヒぁッ…!』


ナマエは慌てて唇を噛み締め、シグバールを睨み付ける。
当の本人はにやにやと笑い、小さく囁いた。


「バレたくなかったら、我慢しろよ?」
『ふっぅ………ゔ――!』


すぐ、近くにゼクシオン達がいる
声を少しでも洩らせば気付かれるに違いない。こんな場面、誰でなくても見られたくない。


『ぅっ、ん』
「…声出してもイイんだぜ?アイツらに聞かせてやれよ。……お前の、感じてるコエ。」


激しくぶつかり合う体。
結合部からは卑猥な音が鳴り響く
その音が、棚一つ向こう側にいるゼクシオン達に聞こえていないかナマエは心配だった。


『や……っも……』
「…俺に…狂、え…ッ」
「仮にも後輩なんですから…」
「仲良くする気はないな」
「ヴィクセン、貴方も頑固な人ですね」
「やかましい。大体こいつは」
『やっ、あぁッ!!』


三人の会話がぴたりと止む。
甲高い声をあげて達した、ナマエは意識を手放していた。中の締め付けにシグバールも欲を放つ。


「今の……」
「誰か、そこにいるのか」


マールーシャの声が近づく。


「おい…、……ッ!!」


マールーシャはその光景に目を見開いた。


「あーりゃりゃ。バレちゃった」
「シグバール?何して……って!!わ、わっ!」


突如聞こえた声にゼクシオンも顔を覗かす。が、その光景に顔を真っ赤に染めて目を逸らす。


「シグバール…!貴様はここをどこだと思っている!何をしているのだ!」
「何って…ナニ。」
「巫山戯るな馬鹿者!」
「そう怒鳴るなよヴィクセン」


ずるりと自身を引き抜き、乱れた衣類を着直す。


「なァーに人の女ジロジロ見てんだよ」


目を見開いたまま固まるマールーシャに、シグバールは笑いながら言い放つ。


「べ、別に見て…」
「おっ立てんなよ」
「下品め…」
「イイカラダ、してるだろぉ?でもナマエは俺のだからジロジロ見んなってハナシ。」


にやにやと笑いを含んでいるが、その目は殺気を帯びていた。


「じゃあな」


ナマエを抱き抱えてシグバールは呆然と立ち尽くすゼクシオン達の傍らを通り過ぎて行った。


「何て節操のないヤツだ…!」


ヴィクセンは溜息を吐いた。
翌日、ナマエがあの三人にジロジロと見られたのは言うまでもない。


(人の近し、営みには気をつけましょう)

END

シグは楽しんで営みをするといい

06.8.19


イトハン