あの頃の記憶


何処へ?


確かにあった記憶が
今はもう無い。あるのは
再び会ったキオク。
触れた感覚が、懐かしい。


『……ロクサス?』
「…誰?」
『会いたかった』
「え?」
『会いたかった…』


抱き締められた温もりにジワリと胸が暖かくなる。
黒装束から覗く顔は黒装束と相反した白い肌。
月を描くような金糸。
囁く声はまるで子守歌。


「誰なんだ?」
『…忘れたままでいいよ』

そう言ったのはその人なのにその頬は涙に濡れていて何故か胸が締め付けられた。
ふわりと香る優しい香り。
この匂いを知っている。
抱き締めた事のあるカラダ?


「アンタは…」
『……ソラの元に行って。』
「…アンタ…まさか」
『貴方は消えるんじゃない…元に戻るんだよ』


重かった身体は軽くなり
離れて行く姿を留めたくて

「待てよ…!」
『ソラが、起きるの』


ソラってあいつ?
何だよ、これ
どういう事だよ。何でアンタが


「また、離れるのかよ!!」


俺、何言っているんだろう
今、初めて、会ったヤツに…今、初めて会った?本当に?
違う…。違う気がする。


『…ごめんね』


謝るなよ。"いつも"謝ってばっかだな。…いつも?いつもって何?
ただ、謝られてるのに嫌気がさして、駆け寄ってその黒装束を剥いだ。
俺の重みを受けて、共に地に叩き落とされた。
その姿に目を、奪われる。全機能が、停止する
再び触れて来た温もり。やっぱり、知ってる。


「アンタを、知ってる」
『……知らなくていい』
「今まで、どこに居たんだ」
『知らなくていい』
「俺だって、会いたかった」


地に広がる金の髪を掬い上げてきつく絡めた。


「…会いたかった、ナマエ」
『………っ!』


ああ、もっと触れたい
触れて、二度と離れないように抱き締めて、呪文を囁きながら眠りのキスを


『……もう、一緒にご飯食べれないね』
「…一緒に遊ぶ事も出来ない」
『一緒に、笑い合う事も出来ないね』


目がじんわりと熱くなる。喉がからからに乾く。
手が震えて…


『ロクサス、でも』
「嫌だ……」
『いつも一緒に居るよ』
「消えたく、ない」
『消えないよ。元に戻るんだよ』


何で駄々をこねる子供の様に泣きじゃくって困らせるんだよ。
ナマエを困らせるな!


「消えないで」
『消えないよ』


違うよ。俺は元に戻るけどナマエ、アンタは


『一緒に、居るから』


うそだ


『だから…ソラを、起こそう?元に、戻ろう』


指さした場所には、ずっと夢で見たあいつ。立ち上がって近付き、中で眠るあいつを見つめていると後ろからナマエの華奢な手が目を覆った。


『……大好きだよ、ロクサス』


囁かれた愛の言葉がシグナルのように暗闇が訪れた。
意識が、なくなる。俺が、俺でなくなる


「…俺も、だよ」


次に目が覚めた時はナマエが笑顔だったらいいのに
それだけ思いながら思い出しかけた記憶に



をした。)


『怖くないよ…だから、一緒に、行こうロクサス』


"うん"
答えた言葉は、届かない

END

ぐは!玉砕!連載で使用しようかって書いたやつだったけども、納得いかなくて没!にしてここにだすっていう所業

06.9.16


イトハン