甘いものが好きな彼女を甘やかしすぎて
他の弟子達に叱られてしまう私の姿を見て笑う彼女の笑顔を


やはり好きだな、と改めて思う。


「ん…?」


ふわりと香る甘い匂いにアンセムは顔を上げた。


『こんにちはぁ、アンセム様、おっすそっわけー!』
「やはりナマエか」
『どしたんですか?』
「お前の甘い匂いが部屋の外からわかったからな」
『え?』


くんかくんかと自分の匂いを嗅ぐ姿に苦笑う。


「今日は何を?」
『今日は異国のお菓子ですー』


そう言い差し出されたのは小さな可愛らしい小袋に入った色とりどりの粒玉。


「これは?」
『えと、確か…"コンペイトウ"とか言ってましたねぇ』
「誰から?」
『道端でもらいましたよ』


………道端?


ばりぼりと食べながらさらりと言ってのけたナマエにアンセムは眉を顰めた。


『何か?』
「知っている者からか?」
『いえ…知らない人からもらいましたぁ』


んまんまと食べるナマエの笑顔は満面の笑みだ。


『アンセム様もどうぞ!』
「う……うむ」


はい、と差し出され一粒取り、口の中へと放り込む。
それはとても甘く、すぐに溶けて消えた。


「砂糖菓子か…すぐ無くなってしまったな」
『アイスみたいにすぐ溶けちゃいましたね』


小さな小袋に入っていた金平糖は二人で貪るうちに、あっという間に無くなった。


『ああ〜…無くなっちゃった…もっと貰えばよかったなぁ』
「毒は…入ってないようだな」
『へ?』
「いや。何でもない。こちらの話だよ」


きょとんとしたナマエに頬笑みかけ、アンセムは書類に視線を戻した。


『アンセム様、何か飲み物お持ちしましょーか?』
「ああ、頼んでいいかな?」
『りょーかい〜』



靴音を鳴らしてナマエはキッチンへ向かう。


「しかし…とても甘ったるいものだな…」


書類にサインしながら口の中は微かにザラついている糖分を口内で弄ぶ。



『………っ、あ……』


ガシャン、とグラスの割れる音がし、アンセムはキッチンに目を向けた。


「ナマエ?大丈夫か?」
『あ、だ……いじょ…ぶです』
「……?」


キッチンから聞こえる声は弱々しく、アンセムは椅子から立ち上がってキッチンへ向かった。


「ナマエ?」


ナマエは割れた硝子細工のカップの破片の上にへたり込んでいた。


「ナマエ!大丈夫か!?」


慌てて肩に手をかけるとナマエの体がビクリと跳ねた。


『だ…大丈夫…ですから…』
「欠片は刺さっていないか?」



ふらりと立ち上がるナマエに冷や汗が流れる。そのふらついた足取りで書類が多大にある部屋に行くナマエ後ろからついて戻ってきた。


『大丈、夫…大丈夫です…から…アンセム様は…お仕事なさってくださ……っ』


ふらつく足がもつれ、アンセムは慌ててナマエの華奢な体を抱き抱えた。


「ナマエ、具合悪いのか…?部屋で寝て…」
『ア、ンセムさ…ま…っ』
「……!?」


あまりにも突然の出来事にアンセムは目を疑った。のしかかって来た華奢な体はかなり軽かった。


『アンセム様…私…っ』
「ナマエ……?どうしたんだ一体…!」


零れる吐息は熱く、熱に浮かされた様な潤んだ瞳に、アンセムはどきりとした。


『や、ばい……ん、です…っ』
「は…?」
『何か…カラダが……へん…』


どういう事だ、と聞こうとした言葉は消えた。
その衝動に思わず、目を瞑る。


『ん……ふ…っう…』
「む、……!!」


気付けば、熱い舌が口内を攻め、ざらりとする感触に目を薄く開いた。


(まさか)
『アンセム、様…』
「ナマエ…」


ゆっくりと体を起こし、アンセムは近場に置いてある冷や水を口に含んだ。


『アンセム様…?』


そのまま、口付けて冷や水を流し込んだ。


『んむ…っう…!』
「ん……く、」


ごくん、と喉が上下しナマエの唇をぺろりと一舐めするとナマエは短く息を吐いた。


「一体誰が…こんな事を」


潤んだ瞳で見上げるナマエに理性を押さえつつもアンセムはこの原因を考えた。


「金平糖か……」


首に腕を回し、耳に口付けを落とすナマエの体を軽く抱き締め、アンセムは抱き上げた。


『ふぇ……?』
「…誘ったのはナマエからだぞ…?」
『ん……』


ぎゅう、と抱きついてきたナマエをそのまま寝室のベッドへと寝かせた。


『は…やく…っ』
「まったく…どこでこんな可愛い事を」


くすくす笑うナマエに口付けた。


*****


「おはよう」
「おはよう御座います。」


食卓に集まった弟子達に挨拶を交わし、椅子へと腰掛ける。


「ナマエがまだ来てませんね…」
「本当だ…まだ起きてないのか?ゼアノート、起こしたのか」


イエンツォ、エレウスの会話を聞きながらアンセムは食事を口に運んでいた。


「…いや、まだだ。今から起こしに…」


ゼアノートがナマエの部屋へ向かおうとエプロンを脱いだ。


「ゼアノート。」
「はい?」
「いい、寝かせてやれ。」


その言葉にゼアノートはきょとんとしながらも椅子へ腰掛けた。


「ブライグ、エヴェン。」
「ん、はい?」
「はい。何か?」


口の中のものを飲み込んで返事をするブライグとエヴェンにアンセムはにこりと頬笑んだ。


「話がある。あとで私の部屋まで来てくれんか」


しかしその頬笑みは目は笑っていなかった。


「はうっ…!…はーい……」
「は、はい…」



他の者は首を傾げながらも朝食を口にした。


(愛しい彼女。"ねぇダーリン私にハニーカラメル、絡める?"誘いを聞かれて答えきれない私を赦しておくれ)

END

犯人はエヴェンとブライグ。

06.9.28


イトハン