あのこのためなら
わたし何でもするわ


『はぁ…はぁっ……』

広い真っ暗な闇の中をひたすら走る
息が、追い付かない。

『あ……っ!』

体が、限界を訴える。
とめどなく流れ落ちる鮮血が印を残す。

『……っ』

もう回復する力などなく、憐れな体は、地にへばりついたまま動けなくなる。
近づく悪魔の足音に逃げたくても立ち上がれない。

「…どうした?もう、逃げないのか?」

低く呟かれた言葉に、恐怖心が増す。

『…サイ…ク、ス…!…う…』

痛む体を無理矢理起こし、引きずる様に逃げる。
一歩踏み出すたびに、体中に激痛が走る。

『……うっ…痛…』

ぼたぼたと滝のように流れ落ちる血が、"逃げても無駄"と物語っているようで
負けた様な気がして、泣きそうになった。

『くっ……は…っ…』

後ろからついてくる足音に恐怖を感じながらも、ただひたすらがむしゃらに歩く。

「…強情だな」
『………いっ…!』

千切れそうなほど肉を抉られた腕を強く引かれ、自然に痛みを訴える声がでる。

『放し…て…っ』
「お前を追い回すのは飽きた。」
『…じゃあ、帰れ、ばいい…じゃなっ…い』
「無理だ」
『何…』

さらり、と揺れ動く青髪に魅入ってしまい、意識が飛びそうになる。

「そろそろ、喰ってやろうかと思ってな」

ニィ、と歪められた口に自然と後退さる。

『なに…?やだ…やめて!』
「いいのか?お前の所為でソラとロクサスが消えても」
『………!!』

絞めあげられた手首に、顔を歪める。

「お前が我々の言う事を聞けば、ソラもロクサスも助けてやろう」
『や、めて…あの二人に…手を出さな…いで…っ』
「お前次第だ」

ソラも、ソラの中にいるロクサスも守りたい。
それって、私の勝手なエゴだと思う。でも大切なんだ。二人が。

『…わかっ……た…』


いた言葉と同時に、顎を掴まれて無理矢理上を向かされる。満足そうに頬笑むサイクスが視界に入った。

『う……んっ』


貪る様に口付けられ、巧妙な舌遣いに意識を持っていかれそうになる。

こんな奴に
感じてたまるか

吐き気の起こりそうな気分を自分の脚に爪を食い込ませて止める。

『う……っ』
「これ以上傷つけるな。」

爪を食い込ませているのに気付いたのか、その手を掴まれる。

「…どうせなら、俺の体に傷を作れ」
『いっ…た……ぁ…』
「もうじき痛くなくなる」

体中にゆるゆると這う手。それと同時に、首から胸元にかけてキスの雨が降った
吸い付かれ、赤い印が残った。この男のものになる、という印。


『や…だ…跡…つけな…っ』
「ナマエ…」
『サイクス…やめ…っ!』
「お前に拒否権はない」


首元を強く噛まれ、鋭い痛みに顔を歪める。


『痛…い……』
「罰だ。言う事を聞かなければ、跡を増やす。」
『……わか…った』
「分かればいい」


口付けられながら、衣類がどんどん剥ぎ取られていく。

(いやだ、怖い)

鼓動が早くなる。恐怖に体が震えて目の前が滲む。

『う……っ』
「俺を煽っているのか?」
『………っふ…』
「…泣き顔なんか見せるな」
『え……?』
「……壊したくなるだろう?」


ナマエは目を見開く。
それと同時に引き裂かれるような痛みに悲鳴をあげる。

『……っああぁあ!』
「くっ……」
『や…ッ、痛い…イヤっ…』
「…力を抜け…」


無理矢理ねじ込まれた欲望に痛みと吐き気。逃げたくて逃げようと暴れた。しかしそれは無理な事で。大きな手が腰に触れ引き戻された。

『ひッぁ……!』
「ナマエ…ッ、お前は生贄になったんだ…お前に逃げる事は…許されない」
『ヤぁ……ソ…ソラ…ロクサ…スっ…』
「…俺に抱かれてる時は他の男の名を呼ぶな…!!」

出したくもない声が、闇に響き渡る。
流れた涙を舐め取られ、ただ腰を押しつけられて喘ぐしかなかった


「感じているのか」
『え……ぁ…っ』
「濡れてるぞ?」


サイクスが小さく笑う。
ナマエは顔を真っ赤にし、両手で顔を覆った。


「ナマエ……ナマエっ」
『あっ……はぁ……っ、んんっ、や、あッ!』
「……っ」


びくんと体が弓なりに返りナマエは意識を手放した。
ナマエの締め付けにより数秒遅れてサイクスも達し、中に欲を吐き出す。息を整え、にやりと口端をあげた。


「…逃がしはしない」


涙を流し、意識のないナマエにサイクスは口付ける。

「お前はこれからも我々機関にとって必要な道具だからな」


乱れた衣類を着直し、ナマエを抱きかかえ闇の中へと消える。


(本当は隠したかったのかもしれない。いや、この娘が"好き"なのかもしれない。)


熱を持った唇に口付ける。意識がないナマエの頬から一筋、涙が落ちた。
同時に回廊がしゅわりと消えた。



(ねぇ、ソラ、ロクサス。守ってあげるから。二人が光の世界で住みやすいように私が犠牲になってでも守ってあげるから…しあわせで、いて。)

そう思い続けながらナマエは幸せな夢に誘われて堕ちて行った。

(だってわたしは憐れなScapegoat



END

名前変換意味なーし。話的に意味。

06.06.15

イトハン