ココロなどない。
ない、はずなのに
必死になる貴方はとても愚か


サイクスはいつも言う。


「心があれば」


その言葉はもう何度も何度も聞かされた。


『サイクスはさ、何でそんなに心が欲しいの?』
「……愚問だな」


人を馬鹿にした様に振る舞うあなたの姿
あなたは本当にノーバディ?


「心があれば、」
『………?』
「お前を愛する事も出来る。」
『それはどうも。でももう十分愛してもらってるよ』
「そんなの本物の愛じゃない。」


髪の毛に絡まる指がきつく髪を引く。その痛みでさえ、愛故に与えられたものだとひしひし感じる。


『ならどれが本物だと?』
「それを知るのは心を手に入れた時だ」
『今はわからないんでしょ?』
「……何が言いたい」


微かに揺れた瞳が、私を射抜く。


『所詮、愛だの何だの言っても偽りって事。』
「…何だと?」
『心がない者のくせに、好き、愛してる、なんて…全然嬉しくならないわ』
「……」
『そうだよね?だって、心がないんだもん。嬉しい、なんて感じるわけない。愛しいとか綺麗とか、悲しい、そういう感情も……貴方が私を愛しているって言う言葉も全部偽りのものじゃない』
「違う!」


ああ、やめて。止まらない。
彼を失望させたいわけじゃないのに
(でも彼を崖っ淵に立たせてあげたい)


『何が違うの?』
「違う、違う!」
『サイクス、何が違うの?違ってないよね?』
「黙れ!」
『い、っつ……』


ぎりりと食い込む指が、じんわりと痛む。
でも、私にとって痛みなら、貴方達にとって、それすら偽物でしょ?
体に与える痛みを受けるなら私は貴方に


(精神的苦痛を)


『力で誤魔化す』
「……ッ」
『それって肯定。』
「黙れ、黙れっ」
『ん、ぅ――っ』


暴力に逃げて、快楽に逃げる。
それが都合が悪くなった時の貴方の逃げ道。


『受け入れたくないんでしょ』
「やめろ…」
『受け入れるべき、貴方達は本当に心がないんだから。心がある人間らしく振る舞って何の意味があるの?』
「それでも俺はっ……」


こうも信じるサイクスは
まるで心の崇拝者、信仰者だ。でも、真実はそんなに優しくないから私が、貴方に教えてあげるの。
傷つけながら、苦痛に歪む貴方を見ながら。ね。


『馬鹿みたい。愚かだわ、サイクス。そんなに夢に縋る貴方は私、キライ。』
「……縋ってもいいだろう!」
『真実を受け入れれば?』
「ナマエ…お前は、何でそんな事を言う…」
『崩れる貴方が見たいからよ』


あ、そんなショック受けたフリしないで。もっともっと傷つけたくなっちゃうよ。


『私が羨ましい?』
「………」
『貴方と違って心がある私が』
「あ、あ…」
『私はね、こんな心いらない』
「何故…?」


目の前にいるサイクスの綺麗な髪の毛。それを思い切り引っ張ると顔を歪める。


『心を持つ者はたくさんの感情を持ち合わせてるの。』
「ああ…それが…?」


ああもう。
こうも鈍いと消したく、なっちゃう。


『喜怒哀楽が全てじゃない』
「………?」
『憎悪、嫉妬、苦痛、欲望、快楽そのたくさんの感情もあるの』
「あ、ああ…?」
『まだ、わからない?』


わからないのならその傷口に、新たな傷を、深く刻み付けてあげようか?


「イっ………!」
『"嫉妬"よ。』
「何…だと…」
『貴方の心に対する気持ちが私、許せない。』
「ナマエ、」
『私のなのに』
「ナマエ…?」
『貴方を独占する心が許せない。私はこんなのいらない。』


白い首筋に噛み付いて滴り落ちる血は私と一緒。


『だから、そんな貴方を消してあげたい』
「ん!?っ……」
『私に溺れてよ』


私だけ、見つめて。


「…ナマエ」
『愛してる、サイクス。』
「………」
『私だけのサイクス。心なんか…手に入れないで』
「無理だな」


首ねっこを捕まれ、まるで猫の様にぐいっと後ろへ引かれる。
そんな扱い、非道い。


『………何するのよ』
「心を手に入れたら、ナマエ、お前を存分に愛してやれる」
『……』
「偽りと言われても構わない。この胸のモヤモヤ感は確証はないがお前を思う気持ち。お前を想うとモヤモヤ感が広がる。」
『……?』
「いや、…何て言えばいい…」


困った顔をするサイクスが可愛くて思わず抱き締めていた。


「ナマエっ…!?」
『可愛い』
「…この温もりも、この胸のモヤモヤ感も全ての意味を知りたい…だから早く心を手に入れて、ナマエを心から愛したい」
『サイクス…』


何で恥ずかしい事をさらっと言ってのけちゃうかな?


『恥ずかしいヤツー』
「な、そんな…事は」
『そんなに心が欲しいなんて』


長い髪に指を絡ませて頬笑みを浮かべた。


(あげるよ)


私の。
私が生贄になってあげるから


『おやすみサイクス』
「ああ、おやすみ、ナマエ」


朝起きたら
私を清めてね。


(あなたとわたし、あなたのために生贄の、禊を交わす)


END

うぉー!ハマ様ゴメンなさい!バッドエンドです。長くなくてすみません!
人間ヒロインさんとノバデー7。
ヒロインはもう7が愛しすぎて気ィ狂っちゃったってハナシです…。
朝起きたら最の心臓付近にヒロインの心と称した心臓がドデン。7驚愕。みたいな…
リクエストしていただきありがとうございました。


06.10.16


イトハン