縋る様に差し伸べられた手は小さかった。


興味本位で抱いた彼女の体。
華奢な体は雪のように白さを増して


(まるで死体のようだ)


そう考えながらまじまじ見つめているとナマエは顔を真っ赤にして逸らした。


『な、何?何見てるのよ』
「いや…真っ白だなーって思ってよ。」
『…ひ弱だからねー』
「加えて貧相だし?」
『死ねッ!』
「んがっ!」


営みが終えたこの場でさえ、こうも他愛ない会話で二人の時間を広げて行く。


ナマエが愛しくて、仕方ない
そんな事を考えていると背中に重みを感じた。


「何だ、ナマエ――重…」
『大好きよシグ。』


ナマエから放たれる愛の呪文。受けとめてやりたいけど


「…向ける相手違うだろ」


そう呟くと意地悪い笑みを浮かべるナマエ。


(ああ、クソ…いい年した俺様が振り回されて)


カチン、と金細工独特の音を鳴らし、咥わえたタバコに火をつける
明かりに燈がぼんやりと輝く。


『シグ、嘘と思ってんの?』
「たりめーだ。お前にはアイツがいるだろーが。」
『じゃあ何であたしと寝るの?』


確信を突いた答えにシグバールは考えた。


「んー…お互いただの性欲の吐き溜?俺にとっちゃお前は俺の性欲処理道具だろ?」
『うわぁー女に対してひどー』
「ま、善く言えばセフレだろ。金とか情のないただのヤリ友みてーなもんよ」


ゆらゆらと煙が空へと漂う。


『シグはぁー…空気みたいな男だねー』
「あ?」
『掴んでも掴みきれない』


シーツを身に纏っていたナマエはそれを外し、床に散らばる衣類を着る。


「どーゆ意味だぁ?」
『そのまんまー。じゃね〜』


軽く髪を手櫛で解いてナマエは部屋を出て行った。


「…空気?」


タバコを灰皿に押しつけ、重たい体を起こし、風呂場へと向かった


ぱたぱたと、水滴が落ちて行く。まるで、今までの情交を汚れを洗い流すとでも言うように、清算するように渦をまいて流れる水を見る


「…俺にどーしろって言ってんだよ」


あいつは人のもの。ただの仲間。お互い性欲の捌け口。それだけ。


それだけの関係。
それだけだったはずなんだ


「何で好きになっちまうかな…」


はぁー、と重い溜息を吐いてシグバールは降り注ぐ水をそのまま受けた


「…知られたくねぇな。この関係も、こんな気持ちも」


俺は知れても構わない
ただ、ナマエがどうなるかわからない
ナマエは知られたくないだろう


「抱いてやらねぇから悪い…そーだろ」


自分の綺麗事を語った理論を並べて自分は安全な位置に


「縋ってきたのを救ってやっただけだ」


浴槽に腰掛け、生暖かい水に手を触れる


ナマエと同じ温度。暖かくて、熱に浮かされて


「あー…やり足りねぇ…」


そう呟いて、そのまま体を浴槽に預けた。
溢れたお湯は、排水溝に向かう



「結局あいつの元に行くんだよなお前は…なぁナマエ?」


いくら愛しても返ってくる愛は足りない。


「足りねぇよ…」


だから俺はまだナマエを欲する
足りない部分をナマエと言う人物で満たす
それは永遠に満足になる事など、ない。


(オマエが足りないんだ。)


END

報われぬ!

06.11.8


イトハン