「ナマエ?」
「どうした、ザルディン」
「ヴィクセン…!」


部屋に入ると部屋の主は居なく。ヴィクセンはその状況に目を見開いた


「ナマエ!?」
「あ、ヴィクセン。ザルディン」


陽気な声に振り返るとデミックスとマールーシャが立っていた


「どうしたの?」
「何故…お前達がこの部屋を…」
「え?ここってナマエの部屋でしょ?」
「ナマエを見かけたのか!?」
「うん。俺、マールーシャの花を見にいこうって一緒に花壇に行ったけど」
「馬鹿者!」


珍しく怒鳴ったヴィクセンの声にデミックスとマールーシャはびくりと肩を震わせた


「何故ナマエをこの部屋から出した!!」
「ご、ごめん……」
「ヴィクセン、落ち着け」
「…聞いていいか?私達はここ数か月、ナマエの姿を見た事がなかった。任務先にいると思っていたがナマエは城内にずっと居たと言っていた。…何故、ナマエはこの部屋にいた?お前達は何を隠しているんだ?」


マールーシャの質問に二人は視線を逸らす


「ナマエは…ナマエの体と心は傷つけられた」
「傷つけられた…?」
「お前達もわかるだろう?ルクソードがナマエの事を愛していた事は」
「ああ」
「うん。」


ザルディンに足され、二人は頷く
ヴィクセンは下をむいたままだった


「ある時…限界が来たんだ。」
「ナマエはルクソードの愛に耐えられなくなって逃げたんだ」
「逃げた…?何処に」
「ヴィクセンの元へだ」


二人はヴィクセンに視線を向けた


「…ヴィクセンはナマエのすぐ傍でナマエを守って支えていた。お互い惹かれたんだろう。傷ついたナマエの記憶は一部ゼムナスが消した」
「そうなのか…だからか……」
「て言うか…マールーシャぁ…どうしよう」
「ああ…」
「……?」


二人が言葉を濁すとヴィクセンは顔を顰めた。


「さっきナマエが…ルクソードの元に行った」
「何だと」
「俺達っ…!本当に何も知らなくて…」
「すぐ向かう。お前達はゼムナスに報告しろ」
「え…ほ、報告してどうするの?ルクソードとナマエはどうなるの…?」


不安そうに見上げたデミックスは恐る恐る聞く


「……時間がない。早く行け」


今まで黙っていたヴィクセンが言葉を放ち、回廊を抜けた
そのあとを追うようにザルディンも回廊へと消えた


****


『一緒』
「ああ。」


二人は城を抜けて暗闇の街を抜けていた


『ごめんなさい、何も思い出せなくて』
「……」


大きな摩天楼が立ち尽くすその場にナマエは足を止める。大きなヴィジョンモニタは砂嵐ばかりを映していた


『…本当に大切な人なはずなのに何故思い出せないの』
「ナマエ」
『思い出してはいけないの?』


ぼろぼろと涙を流すナマエにルクソードは口付け、低く囁いた


「思い出さなくていい」
『え…』
「思い出せばお前は」


チリッ、と首元に痛みが走る。
ナマエは顔を顰め、首元に手を辿らせた。
ぬるりとした生暖かい感触にルクソードの顔を見る。


『…ルクソード…?』
「………」
『…続きは…?』
「思い出せば逃げて行くから」


じくじくと頭が痛む。
ナマエの脳裏に欠けたピースが埋まり始める


『わたし、達…本当に恋人…?』
「…じゃあ何だ?」
『…逃げるって…何から…?』
「………」


後退さるナマエとは反対にルクソードは無言のまま近づく


『答えて……』
「……俺から、だ…」
『…何…で……?』


何も答えないルクソードからナマエは逃げ出す。
灯りのついた摩天楼のビルへと走り、煌びやかな光をちらつかせる窓を叩いた。


『誰か!助けて!』
「忘れたのか?」
『……っ!』


ナマエのコートがカードによって壁に縫い付けられる。ルクソードは背後に立ち、耳元で優しく囁いた


「この世界にいるのは」
『いっ………!』
「我々のような存在と、影ばかりだ」


するすると這う手はコートを無理矢理抉じ開ける
銀細工の装飾具が鐘の様に音を鳴らして地面を跳ねる


『いや……』
「ナマエ、愛しているよ」
『やだぁ…ッ!いやっ…やぁあ!』
「……っ、久々だから、加減がわからないな…」


無理矢理入れられ、慣らされていないソコは肉を引き裂く音が耳に付いた。


『い、や……!』
「思い出したか?」
『わた…し、が…逃げたのは…貴方の、愛に耐えられなくなっ……て…ッ』


引きつる様な声をあげ、ナマエは途切れ途切れに言葉を発した


「…女は面倒だ」
『…っ』
「放っておけば愛が足りないだの何だのと泣き、愛しすぎればうざったいと逃げる」
『ふっ、あ……』
「だがお前は違った」


中身を全て押し上げられる様に、抉られる欲望。


『やぁっ…は……ァ…』
「…愛し合っていたのにお前はもう一人も愛した」
『ん……っ!』
「気が…狂いそうになった…。いや、もう狂っていたのかもしれんな…」
『やぁっあ、も……ッ』
「だ、から、あいつに取られるくらいなら……っ!」


最奥を突かれナマエは達した。同時に中に広がる熱に体を震わせ、酸素を吸い込むと胸に走る激痛に整えようとした呼吸が更に乱れた。


『アっ……う、ぐ…』
「は…っ、奪われるくらいなら消してしまえばいい。そう考えた」
『る、く…そ…?』


深く抉るそれは最早、銀色ではなく、赤黒く血に塗れたものになった


『や…め…』
「どこでおかしくなった…?」


ナマエから体を離し、ずるりと引き抜かれたそこからは生々しい行為の跡。


「…お前を愛しすぎた俺は…愚かか?」
『あ、ぅ……』
「お前に捨てられ、忘れられるくらいなら…消えた方がマシだ…」
『ん、ぐっ…ル、クソード…』
「お前が俺を拒むなら、これで…終わりにしてくれ」


ナマエの血で赤く濡れたナイフを引き抜き、体を反転させて手渡した


『ごほっ…で、…出来ない…っ』
「なら俺を、俺だけを愛せるか?無理だろう?」
『何で…?かはっ…!あ…いま…今まで、通り……』
「無理だと言ったはずだ」


ルクソードは赤い手で、涙を流し続けるナマエの頬を包み込む


「お前も、もう分かっているだろう?」
『う…い、やだ……!無理…!』
「…いつも聞き分けがなかったなナマエは…」
『………っ!』


困ったように笑うその顔にナマエは涙が止まらなかった。
その顔が好きで愛したのに、いつしか本当の顔を見せなくなった。それはもう、狂っていたのだと


「お前も、そのままだと消えてしまう…。一緒に消えようと思ったが…これ以上醜い事はしたくない」
『…やだ…っ』
「仕方ないな…、ナマエ…楽にしてあげよう。…目を閉じろ」


驚きに息を詰まらせる。けれど彼をこんな風にしてしまったのは自分だ。そう思い唇を噛み締め言われるままに目を閉じる。抱き締められた体からふわりと、ルクソードの匂いが香る。
そして優しい口付け。


さよならの、くちづけ


『………!』
「グ……っあ…」
『い、や…イヤぁっ…!』
「…この痛みを…俺は、お前に味わわせていたのか」
『耐えるから…!どんな痛みにも耐えるから…っ』
「非道く扱ったが…今はお前に…幸せ、になって…ほしいと願ってる…」


ぐちり、と肉と血が旋律を奏で、大きな体は崩れ落ちた


『いやぁぁあッ!!』
「ナマエ!ル、クソード…!?」
『ヴィ、クセ…ン…』


駆け寄る姿をみて、ナマエはにこりと頬笑んだ


『約束したの…だから守らなくちゃ……』
「や、やめろ!!」
『ごめんなさい…』


血が流れるその胸に自らナイフを突き立てた。ヴィクセンの悲鳴が耳に残る
微睡む意識の中、手を握り、エタノールと錆びた匂いを最後に意識が飛ぶ。
その手は誰のものなのか、わからなかった。


裏切りの手を取ったナマエと消滅への手を取ったルクソード
ヴィクセンは動かない二つの体を抱き締めていた


(ごめんね愛せなくて。愛は、与えられないけれど許して私の、命を捧げるから。だから二つの手をつかんだままでいさせて)


END

バッドですみません。みんなイッちゃってすみません。色んな意味ですみません。長くてすみません。


06.12.5


イトハン