甘いかおり

それは彼女の存在を現わすものだった


「お前…それ、全て食べるのか」
『…悪い?』


テーブルの上に置かれた大きめの瓶。
それには色とりどりの飴玉達。

『食べる?』
「いや、いらん。甘いだろうそれは」
『アメが甘くなくてどうするの』
「…糖尿病なるぞ」
『大丈夫よ』

かさかさと小さな包みを開け、赤色の飴玉が顔を覗かせる。
ころん、とナマエの口内に転がる

『…なに?』
「お前はいつもそれを、食べてるな。」
『好きだからね』
「まさか…任務の時も食ってるのか?」
『ええ。』


喋るたびにからりと音を奏でるそれは心地良く
誘われる様に瓶を手に取る


『食べる?甘いのが苦手ならハッカがあるわ』
「ハッカ?」
『それとも野菜味がいいかしら』
「…そんな怪しい味はいらん。ハッカという物をくれ」


眉間に皺を寄せ、手を差し出すと透明の包みに入った白い飴玉がちょこんと掌に姿を現わす。それを軽く掲げて翳す。


「水晶みたいだな」
『その透明さみたいに味もすっきりするわよ』
「……スッキリ?」


ひょいと口の中に放り込み、唾液で溶かすとヒヤリとした感覚が咥内を侵食して行く


「……!」
『どお?私、ハッカ苦手だから食べてくれる人がいて助かったわ。サイクスにあげようと思ったんだけど、後々怖いから』
「これは…強烈だな」
『ふふ。すっきりするでしょ?』
「し過ぎだ」


咥内に在る飴玉をガリガリと噛み砕き、軽く咳払いする。


『あ。噛み砕いた。』
「当たり前だ。ずっと舐めていたら気が変になる」
『大袈裟ね』


意地悪く笑うナマエの顎を掴み、舌を絡め取る様に口付けた


『ザル…?ん、なにす…っ!』
「…口直し。」


からり、と飴玉が音を鳴らす。
ナマエの咥内にあった飴玉はザルディンの舌に攫われる


『新しい飴玉…開ければいいじゃない』
「お前ごと戴きたいんだ」
『嫌よ』
「言っただろ」
『え?』


甘い、かおり。


「気が変になる、と」


その香りは人をおかしくする


『…ウソツキだね、もう…策士、策士だ!』
「ふん…。気付かないお前が悪いだろ?じゃあ、いただきます」


その香りを纏うナマエは

『仕返しに今度寝てる時、ハッカを口に詰め込んであげるわ』
「夜這いか。楽しみだな」

俺だけの媚薬香となる
その香りは


俺だけの、前で


(Her fragrance Perfume of sweet candy)


END



あれ、おかしいな。ザルがキモい人に。




イトハン