いつもならその廊下は通らない
しかし今日は何故この通路を通ったのかなどわかるはずもなく

「ん?あれは…」

通って、あの光景を見なければきっと変わらず、何も知らないままだったのだろう

「ナマエ様、と…ドラグーン?」
「やっほ!」
「ひ!」
「こーんなトコで、なーにしてんのー?ギャンブラー」
「ダ、ダンサーか驚かすな」


危うく消滅しかけたぞ、と言いかけ先程見たあの二人に視線を向けた

「あ、ナマエ様とー…ドラグーン?何してんだろぉ」
「分からん。」

珍しいな、と言いかけ、思わず固まる。その、二人の行動に我が目を疑った

「?なに、どしたのぉーギャンブラー?」
「い、…や」

ダンサーはあの二人を背にしていたからあの光景は見ていない
きっと見ていてもただ「へぇー」の一言を吐き出して関心するだけだろう(どうかは分からないが)

「す、すまん、書物庫に行かねばならんので失礼する」
「あ、うんーじゃあねぇ」

ダンサーと別れ、足早に書物庫へと向かう。
一度書物庫に行って本でも読んでゆっくりと頭の中を整理しよう。
そうだ、それがいい。
ブツブツと呟いて、真っ白い廊下を曲がり、よくたむろする書物庫へ足を踏み入れる

「……とりあえず、ああ、落ち着こう」

明らかに動揺しているのが自分でもわかる。
何か本を読もう、そう考え、本を取るべく気に入った本を探そうと歩き回る

「これがいい、かな」

分厚い本を手に取り、書物庫にぽつんと置いてあるソファへ座ろうと来た道を戻る。
不意に闇の気配を感じ、思わず隠れた。何故隠れたかなんて、分からない。この静寂に一人で居るのが悪さをしているようで、つい。と言ったところか。


けれど隠れた事で、後悔するとは知らずに。


「ふう」
『ごめんね、ドラグーン。回廊、開いてもらって』
「いや…構いません」
『ふふ』

…何て事だ、とうなだれる。
逃げて、落ち着こうとこの場に来たのにまたもや追い詰められる形で出会うとは

「ナマエ様」
『ん、ドラグーン…』
(……!)

本日二度目の衝撃。
そう、このシーンを見て驚かない者はいないであろう
まさか

「ナマエ様…ナマエ様…っ」
『…ドラグーンっ、か、鍵閉めてな…』
「風の力で閉めましたからご安心を」

配下とナンバー持ちが交わるなど

『ドラグーン…はやく…』

有り得ない事だ
そして彼女、ナマエ様は
ドラグーンの主のもの、なのに

『ア、はぁ…ん……』
「ナマエ様…声、を、押さえて…ください」
『無理ぃ…っ…』

普段の二人からは想像も出来ないその姿に、私はただただ固まるだけで

二人の背徳を絶望と、混乱、好奇心の三つをごちゃまぜにした思考のまま、事を見ていた


********


『ドラグーン…』
「…早く、お戻りにならないと」
『…離れたくないなぁ』
「ナマエ様」
『……分かったよう。じゃあ…またね』

しゅるりと回廊が口を開ける。ナマエ様が開いた先に駆けて行く
回廊の口が閉じたのをドラグーンは見続けていた


「…出て来てもいいぞ、ギャンブラー」

呟くように、ドラグーンが声をかけてきた。一瞬心臓がドクリと脈打ったが、平然を装ってカツン、とブーツを鳴らした。

「……」
「お前にバレるなんてな」

自嘲気味に笑う姿に胸がチクリと痛む
何だこれは

「…諦める気はないのか」
「…。諦めなくてはいけないのは分かってるんだ…だが…体が、思考が言う事を聞かないんだ」
「……いつからなんだ?」

自分の両手を見つめ、ドラグーンは目を閉じた。
言われなくともわかる。きっと、出会ってしまった時から惹かれてしまっていたのだろう

「ザルディン様に知れたら…お前の存在はないんだぞ!?」
「…それでも、俺は」
「馬鹿者が…」

何も、知らないままがよかったのかもしれない。
もし、仲間が
尽くす主の手によって消されるという事を想像しただけで胸の痛みが増した。

「馬鹿者が…っ」
「…お前だって、好きだったろ」
「……何、を」
「ナマエ様の事を」

何でこいつは全てを見透かしたように
優しい目で言うんだ。

「…昔の話だ」
「それでも俺はお前と…主を裏切って存在してる。卑怯だ」
「…お前の所為じゃない。人を愛する事の何がいけない?確かに主の想い人だ。赦されていい事ではない。しかし人を好きになるなど自然の事だ…仕方ない、不可抗力だ」
「ギャンブラー…」

そうだ、仕方がない行動なのだ
好き、などの感情。厄介な感情だ


「私はお前を応援する気はない」
「……」
「何も、見なかったし、聞かなかった」
「………!」

回廊を開き、主の真似事をして頬笑むと困った顔をしながらも笑みを浮かべたドラグーンが敬礼のような動作で手を吊り上げた


回廊を彷徨いながらも思考を巡らせていた
忘れよう、今日みた事は全て
今日聞いた事は全部


(何も、知らないままの振りを)


演じよう



END


こんなはずでは…厄介事は消去!


07.1.22



イトハン