うつくしいけもの。
その研究に没頭する姿はあまりにも哀れで

それでも好きだと思った。

「ナマエ」
『ザルディンー?』
「まだやってるのか」

顕微鏡から視線を外さないナマエの傍にブーツの踵を重々しく鳴らして近付く。

「…今度は何を?」
『知ってた?心って弱れば弱る程闇に付け入れられやすいの。』
「だから?」
『素っ気ないわね。ね、これ見てくれる?』

ナマエはやっと顔をあげた。視線がかちあう。端正な顔にピンク色の唇がにこりと弧を描く

「…これは…この血は汚職されてない」
『ね!凄くない?これ、誰の血と思う?ゼムナスの本体、ゼアノートの血よ…』
「ゼアノートの…?何故、とうの昔に消えた奴の血がある」
『ホロウバスティオンで冷却保存されてたものを引っ張り出してきたの。苦労したわ。だって年代モノよ、一歩間違えたら数年保存していたモノがパァなっちゃうもの』

目をきらきらと輝かせ、ナマエは小さな試験管に入った血のサンプルを見つめた。

『…この血の細胞の作りを…調べたら』
「……」
『ううん、もっと詳しく調べて、混合すれば…』

ブツブツと呟くナマエを後から抱きしめ、首筋に顔を埋める

『……なーに…?』
「…たまには俺にも構ってくれ…研究ばかりじゃなく…」
『甘えたがりなんだねザルディンは』

くすくすと小さく笑い、唇を寄せ合う、あと数センチの距離で一枚目の扉が開く音。

『…ザンネンでした。…おあずけ』

妖艶に頬笑み、するりと腕から抜けたナマエに小さく溜息を零すが、悪いのはナマエではなく扉を開ける主。

「…ナマエ、どうだ」
『ねぇ、ゼムナスこれ見て?貴方の本体の血なの』

二人話す姿にやれやれと二度目の溜息を零す。
彼女が振り向くまでにはまだ時間がかかりそうだ。
たまには構え、と無理矢理抱きしめたかったが敢えて押さえる。
惚れてしまったものは仕方ない。だが研究に没頭するナマエの姿が輝いて見えて、やはり好きだな、と思わせられるのは

(惚れた弱み。
まだまだ、このうつくしい獣振り回されそうだ――)

END

お預け食らった犬。って言うか野獣?


07.3.26


イトハン