ナマエはバ…、いや、世間知らずだ。
あまりにも世間知らずなのでこちらがヒヤヒヤする。見知らぬ者について行ったり、意味の分からん物を拾ったり…

『ザルディン、見て!』

そして今日も、やらかした

「何だそれは」
『分かんない。何だろ?ザルディン、何だと思う?』
「……」

拾った本人でさえ分からないものを、俺が分かるはずもなく
ナマエの腕の中に居る物体は足をぴょこぴょこと揺らしている

『ねー、可愛いでしょ』
「…拾った所に置いてこい」
『可哀相だよ!』
「ダメだ、戻してこい」
『やだ!』

その物体をぎゅう、と抱きしめ、頬を膨らます姿はまるで子供そのもの。
黒い物体はナマエの腕の中で苦しそうにジタバタ藻掻く

「……」
『可愛いー…』

スリスリと頬を寄せると、その物体は気を良くしたのか、その短な手でナマエの頬に触れた

『……っっっ!見た?今の見たっ!?可愛い…私の頬に触れた!』
「……ああ」
『ねー…ザルディン…一緒に住んだらダメ…?』
「……」

首をくりっと傾け、上目で見上げられ了承せずにはいられなかった

「…俺は世話をしないぞ」
『私がするもん』
「俺は放っておくのか」
『何、子供みたいな事言ってんのよー。さーおいでー』

小さい我が儘を軽く促され、眉間に皺を寄せた。
突然その黒い物体がふわりふわりと浮かび、傍に寄ってくる

「……何だ?」
『さぁ?』

くいっとコートの裾を軽く引っ張ったかと思えば畏まってぺこりと礼をする

「………」

つまりは"ありがとう"と言っているのだろう
軽く礼をしたその物体は両手をペンギンの様にし、ゆらゆら揺れている

「……どう、いたしまして…?」
『ザルディン?』

頭を撫でてやると黒い物体は嬉しかったのか、ぷきゅぷきゅと足音を鳴らして走り回る。


(果たして走っているのかも危ういが)
『なーんかー!ずるい!』
「何が…」
『私も洋服の裾、グイグイされたいー』
「お願いすればいいだろう」
『自然体がいいの!』

走り回る黒い物体を拾い上げるとはてなマークがお似合いの首傾げポーズを取り、ぴこぴこと足を揺らす

「ホワイトマッシュルームに似ているな…。仲間かもしれんな」
『名前何にしよう』
「ん?背中に数字がある」
『ザルディンと同じ数字だね』

高さがある所為で怖いのだろう。ぎゅう、と縋る様に抱き着いてくるキノコ(?)

『やだっ!』
「!?」

急に声をあげ、ナマエはキノコ(?)を軽く押しやり、抱き着いてきた

「…何だ急に」
『…君も可愛いくて好きだけど…ザルディンは私のだから、ギューしちゃダメ…』

可愛いらしい事を言ってくれるナマエに思わず押し倒したい衝動に駆られたが、そうすれば間違いなく腕の中に居るキノコ(?)が潰れて中身が出る事になるだろう

「…嫉妬か?」
『違うもん…』
「なら何だ」
『この子取られて何か悔しいだけだもん…』
「俺に嫉妬か」

果たして振り回されるのは俺か、ナマエか、キノコ(?)のどちらか。わかりそうにもないから困ったものだ。

(ねえ、略奪愛ごっこしようよ)
(…くだらん、退け、お前に潰されてこいつ苦しそうだぞ。)
(ああ!)

END

キノコが書きたかった。悔いはない。
あまりにもキノコ症候群なりすぎて出来た代物ー

07.5.20


イトハン