「愛してる」

愛してる?
毎日囁かれる言葉は
偽りの言葉だ

『………』
「あ、ぁっ…や…気持ち、良い…ッ」

隣の部屋から聞こえる情交の音にナマエは気にも止めず、パラリと本のページをめくる。

「アンタ…っ、フリーなんて勿体ないわ…ぁ…ッ」
「どうも…?」
「アンタみたいな男…、最っ高よォ…」

ギシギシ軋むベッド
快楽に狂った女の嬌声
ぶつかる肌から落ちる汗
達した証の精液

『…気持ち悪っ』

本をパタンと閉じ、ナマエは台所へと向かう。
求めるものは喉を潤す飲み物。
ナマエよりかなり大きな冷蔵庫から水のボトルを一本手に取り、キャップを捻る。

「ナマエ。俺にも1本くれ」

ヒタリ、と鳴る足音に振り向き、その場には今お楽しみ真っ最中のはずの男が立っている

『…はい、どうぞ。』
「ありがとう。」

錆びた匂いと嗅ぎ慣れた快楽の匂いが鼻を霞めた。

『…あの人は?寝ちゃったの?ほったらかししちゃ可哀相だよ?あんなに喘いでたのに』

ナマエの質問には答えず、喉を鳴らし、水が綺麗にその咥内へと飲み込まれて行く。
見える喉仏が艶かしく、彼が喉を潤すたびに上下する。

「ぷ、は……」
『……聞いてる?』
「…彼女は眠ってしまったよ」
『ふぅん』
「あまりにも耳元で五月蝿く鳴くもんだから」

スルリと頬を包む手は暖かい。
ナマエはただ冷めた瞳で見つめ返す。

「名前を…呼んでくれ、ナマエ。」
『……ルクソード』
「もっと」
『ルクソード』
「ナマエ、」

赤い"それ"が、ナマエの顔を染める。
整った顔が近づき、唇が捕われそうな位置でナマエは顔を背けた。

「…何で避ける」
『タバコ臭い。お酒の匂いも。それに』
「血の匂いも臭い…か」
『ええ』
「なら…お前が綺麗にしてくれ」

愛おしむ様に、ルクソードの指がナマエの唇をなぞる。

『風呂』
「ああ」
『アレ、はどうするの?』
「放っておけばいい…。もう動かないから」

ナマエの首筋にルクソードの顔が埋められ、軽く吸い付かれる
髭が当たり、擽ったいと身をよじる事などナマエはしなかった。
ルクソードを押し退け、無言で風呂場へと向かう。

『…さっさと洗うよ』

先程までギシギシと悲鳴をあげていたベッドの上には赤く染まったシーツと、快楽に浸っていた女の姿。

『処理する身にもなってよ』
「ああ、すまない」

シャワーのコックを捻り、ぬるま湯を出してルクソードにかける。パタパタと滴り落ちる雫は白と赤を綺麗に流して行った。

『汚い』
「…ナマエは綺麗だな」
『ルクソードは汚いね』
「愛してるよ、ナマエ。」
『私も愛してるけど大嫌いよ』
「非道い事を言うんだな」

壁際に押し付けられ、唇を奪い取られる。
熱い舌が、咥内を掻き乱す

「ん…。ナマエ…たまには、ないてくれないか」
『なく?どのなく?』
「他の女と寝てる俺に絶望感を抱いて泣く」

一つ一つ外されて行く釦
もう片方の大きな手がナマエの華奢な体をまさぐる

『………』
「他の女を抱いた後にお前を抱いて鳴く」
『両方、って意味?』
「あぁ……たまには嫉妬ぐらいしてくれ」

ルクソードの舌が首筋から肩に下りるとその場に歯が立てられる。
強く噛まれた肩からは赤い血が一筋流れる

「綺麗に…してくれ」
『私を穢して、自分は綺麗になるのね』
「ナマエを穢せば…ナマエに誰も触れられない。」
『汚い男』

それからはもう何もいらない。ただルクソードの想いをナマエは体で受け入れるだけ。
何も言わず、ただ冷めた瞳でルクソードを見つめる


"愛してる"

ぎしり、ぎしり

"愛してる。"
本当に歯車が壊れたのは、誰?


(それでも、壊れても動き続ける歯車は誰も止めてはくれなかった)


END

狂って壊れたのはどっちでしょうってハナシ
ヌルいエロス(笑)


07.6.3


イトハン