彼の寝顔を見た事はない
元々整っている顔なんだからきっと、死人のように綺麗なんだろうな

『ルクソード』
「何だ、ナマエ」
『今すぐ寝て』
「は?」

私の言葉にルクソードは怪奇そうに眉を顰めた
そりゃそうだ。部屋に入ってくるなり、いきなり「眠れ」だなんて誰だって突然の言葉に対処しきれないだろう

「何だって?」
『だーかーら、寝て。今すぐ。ハイ、GO!GO!BedRoom!』
「何だ、昼間から盛って」
『違うッ!って!脱さないでよ、バカッ!』

その日は敢なく失敗に終わった。
そう、私は計画を立てないから悪いんだ、と思って真夜中、紙に計画表と記して書き綴った。

*****


『おはよ、ルクソード』
「おはよう」
『新しい紅茶仕入れたんだ〜飲もう飲もう!』
「いや、今は遠慮しておこう。戸棚に置いててくれ」
『…はーい』

作戦その1、紅茶に睡眠薬を混ぜて眠らせよう作戦、失敗。

『ルクソード!』
「何だ」
『あのね、ゼクシオンから催眠術習ったの!実験台になって!』
「…構わんが」
『よし、私の指見て目で追って?貴方は眠くなーる眠くなーる』
「………」
『眠くな〜る……ど、どう?』
「全然。」
『…くっ!』

作戦その2、催眠術で眠らせよう作戦、失敗。

「ナマエ?何をしているんだ?」
『えー?』
「何を」
『スリプル!』
「……」
『よしっ!』
「…何がよし、だ。」
『ぎゃあ!首根っこ掴まないで!』

作戦その3、魔法で眠らせよう作戦、失敗。

『むー…まいったな…もう手持ちのカードはないよー…』

小さく呟き、ソファに腰掛けて本を読むルクソードを睨みつける

『何かいい作戦…作戦ないかな…いっそ夕飯に睡眠薬盛るか?ダメだ、皆も食べるし』

溜息を吐いてボンヤリと見ていると肩を押さえるルクソードの姿。
『ルクソード?疲れてるの?』
「…ああ、少しな」
『私がマッサージしてあげる』
「年寄り扱いするんじゃ」
『しませんしません。本当疲れてるのに無理しないでね』

親指に力を込めて肩から首に、首から頭にかけて筋肉を解して行く。

『相当凝ってるねー』
「…ん……そう、か」
『痛くない?』
「いや…気持ち良い…」
『?』

いつもの、しっかりとした声ではなく少し、だらけたような声のルクソードに疑問を感じて顔を覗き込む。
長い睫毛がアイスブルーの瞳を薄く隠し、顔も少しばかり緩やかだ
『寝ないでよ?』
「無理、な…注文だ……気持ち良いから…な…」
『ルクソード?』

名前を呼んだ後に返事はなく、代わりに小さな寝息が聞こえ始めた
『もう、仕方ないなぁ』

部屋からブランケットを持ち出して、起こさぬように横に寝転がせてルクソードにかぶせる。

『お疲れ、なんだね』

額に手を当てて頬笑む。

『あ。』

ずっと見ていたいと思っていた寝顔。想像していた通り、とても綺麗だ

『キレイ……』

誘われるように唇に軽く口付け、そして額にまた一つ軽く口付けた

『本当、綺麗…。死んでる…みたい…』

動かないルクソードに不安を感じて、軽く揺さぶる

『ルクソード』

呼びかけに答えない恋人に何故かじわりと涙が溢れ出す

『ル、ク…ルクソードっ』
「……眠れる森の姫は、王子のキスで目が覚める、と言うが…」
『ルッ…』

目を閉じたまま言葉を紡ぐルクソードにナマエは眉間に皺を寄せた

「さて、ナマエ。君はどうすればいい?」
『え……』

今だ体も起こさず、目も開けないルクソードにナマエは唇を噛み締めた

『……』
「いつまでもそのままだと王子様は寝たままだな」

くつくつと笑い、軽い意地悪にナマエは頭突きをかましてやろうかとも思ったが、今だ残る不安を掻き消したくて口付けを落とす。

『…起きて、』
「まだだな」
『……え…?』
「もっと、優しいキスをしないと王子様は弱ってしまうかもな」
『もう……』

さらりと恥ずかしい事を言ってのけるルクソードの頬を軽くつねり、再びキスを送る。
軽く口付けていた口付けは後頭部を押さえられて次第に深くなる。
急に体が宙に浮いたかと思えば視界が反転した

「Guten morgen、姫?」
『…おはよ』
「寝顔を見れて満足したか?」
『した、けど…』
「けど?」
『やっぱり、起きて動いてるルクソードじゃないとやだ』
「…これに懲りたらいらん事はしないように」
『……はーい…』

与えるだけのキスのお返しに、今度はルクソードからのキスが降り注ぐ
寝顔もいいけど、やっぱり抱き締めて、キスをしてくれるルクソードがいい

「…それにしても死人みたいだなんて随分非道い言われ様だったな」
『ごめんごめん』
「許さん」
『許してよ、素直に出ちゃったんだもん…』
「このままで居させてくれるなら許そう」
『えぇ〜?』

嫌だなぁ、なんて言ってる私だけど
本当はずっとこのままで居たいなとか思ってる事は王子様には内緒だ。


(いやでもルクソードが眠れる森の王子様ってなくない?)
(何故だ)
(だって若くなぎゃああ!)

END


うわぁルクが気持ち悪い!拍手にてリクがあったんですが…これって甘夢?リクをしてくださった方に捧げマス。


07.7.25


イトハン