「何故眼鏡をかける?」
『…目が悪いからよ』

そう答えた彼女は
視線を合わさない。

「目、悪いのか」
『うん』
「両目視力、幾つだ」
『覚えてない』

きっぱり言い放つナマエに軽く脱力感を覚えながらも視線を逸らすナマエの姿を目で追う。

「ふむ…」
『ルクだってかけるじゃない』
「……?」
『老眼鏡』
「…切り刻むぞ」

含み笑いするナマエ。こう言うのも何だが、眼鏡をかけている時の彼女の姿と、かけていない時の彼女の姿はとても変わる。

『…何でまた…いきなりそんな事を聞くの』
「いや…別に理由はないんだがな」

自分に背を向けて本棚を見つめているナマエに近づく。
もちろん足音は立てずに、ゆっくり。そう、まるで肉食獣が草食動物をハンティングするみたいに。
そろり、そろり。

「ナマエ」
『わっ!何?』
「眼鏡、貸してくれ」
『…な、何で?』
「セルフレームタイプの眼鏡をかけてみたくてな」

背後から奪うように手を伸ばすとナマエは必死に眼鏡を押さえる

「ナマエ、壊したりしない、借りるだけだ」
『や、やだっ!ルク片眼鏡とかナイロールの持ってるからいいじゃん!』
「何故嫌がる?」
『だっだ、大事だから!だから触っちゃ駄目!』

異常な程の慌てぶりに何かが引っ掛かる。
あからさまに溜息を吐いた。

『な…何、何企んでるのよ』
「ナマエ。」
『なにさ』
「眼鏡を貸してくれ」
『ヤダってば…何で!』
「……」

ナマエの顎を掴み、引き寄せるとナマエの瞳が大きく開く

「…眼鏡をかけていると、キスしにくいだろう」
『んなっ!?』
「当たって…深く口付けられん」
鼻から上は少し距離を開けたままナマエに口付ける。
うっすらと目を開けるときつく閉じた目が、レンズ越しに見えた

『ん、んんっ…ァ』
(成程…)
『ちょ…』
「ん…」

ぺろりと歯列をなぞり、唇を離すと顔を真っ赤にしたの姿。

『も、う』
「ナマエ。君が眼鏡を外したくないわけが分かった。」
『え?』
「…伊達眼鏡か」

そう言うとナマエは真っ赤な顔をこれでもか、と言う程更に真っ赤にした

「何故?」
『だっ…て』
「ん…?」
『…ルクの目…蒼くて綺麗だから何でも見透かしてそうで…恥ずかしいの。だから…少しでも壁を作る為に…眼鏡、を』

下を俯き、ぼそぼそと小さな声で呟くナマエを抱きしめた

『ル、ク?』
「…見透かされそう、か…」
『え?』
「本当にそう出来れば…苦労はしないんだがな」
『何?何て言ったの?』
「気にするな」
『きっ、気になるよ!』
「…眼鏡をかけない方が、魅力的だ、と言ったんだ」

ナマエの顎を持ち上げ、伊達眼鏡を取り外しキスを送る。片方の手は長い間、ナマエの肌に触れて支配していた眼鏡を


パキリ。

一握りで潰した。


(伊達眼鏡なんてかけるな。邪魔だ"色々"と。)


END


伊達眼鏡って何かある時かけちゃう(笑)


07.09.17


イトハン