ただ愛して欲しかっただけ。
でも貴方が愛したのは私ではなかった

『ッ、あ……アンセムさ、ま』
「ん…」
『あっ、ふ…ハァ……ハァ…』
「はぁ、は……」

久々の情事。
私の下で荒い息を整え始めるアンセム様。
こうして触れ合えたのは何日振りだろう
そう思いながら髪の毛を撫でてくれるアンセム様に体を預ける

「大丈夫か…ナマエ」
『…ん…』
「何か考え事か?」
『……少し』
「何を考えていた」

頭を撫でられるたびに眠気を誘われ心地良い声が擽ったかった

『アンセム様は…私より研究が大切なんだろうな、って…思ってて何だか…』
「……」
『アンセム様…?』

頭を撫でる手の動きが止まり顔を見ると、当の本人は既に夢の中。

『…んぅ』

中に入り込んだままのモノを引き抜くように腰を上げ、隣に座り込む

『…私は…何の為に貴方の傍に存在るのかな、って』

ポツリと呟き、溜息を零す。
起きる気配のない部屋の主を寝かせ、私は衣服を整えて部屋を後にした


******


「ナマエ?」
『あれ…ゼアノート?』

研究を行っているはずの彼の姿に私は読み掛けの本を閉じた。

『どうしたの?』
「いや、昼時だから呼びに来たんだが」

もうそんな時間か、と頭の隅で考えるも動こうとはしなかった

『片付けたら行く。先に食べてたら』
「しかし」
『今は…一人で居たい』
「ナマエ…?」

出された本の量からすれば相当集中していたのだろう。
片付けながら溜息を吐くと長い手が本を拾った

「手伝う」
『…ありがとう。でもいいの?早く研究したいでしょ』
「ナマエ一人残して食事を取りに戻れないよ」
『…そう、ありがとう』

彼の優しさに、ニコリと頬笑むとゼアノートはほんのりと頬を赤く染めた

『ゼアノート』
「何?」
『私と寝てみる?』

ゼアノートの手からバサバサと本が落ちる。本人は更に顔を真っ赤にしてただ謝罪を述べた。

『照れてる』
「ナマエ、からかうな」
『からかってないよ。本気で言ってるの』
「え…?」
『抱いて』

厚い胸板に顔を埋めた。どくん、どくんと早い鼓動が耳に響く

「お、おい、ナマエ」
『ダメ?』
「…お前はアンセム様の…ものだろう」
『そんなの関係ない…』

頬を包み込み、キスを送ると遠慮がちに舌が絡められた


抱かれながらも頭の隅では焦燥感に駆られていた

「大丈夫か」
『大丈夫、優しいね』
「いや…」

ゼアノートの後ろから歩き、講堂に足を踏み入れる。待っていた面々に遅いと一喝入れられ謝って席に座りいただきますの合図をかけ食事を摂る
アンセム様に視線を向けると何かの書類を見て食事を摂っていた

私の事なんて、これっぽっちも見向きもしない。あの人にとって私は何なんだろう。

頭の中でその嫉妬じみた文字しか浮かばなく、急激にこの空間に居るのが嫌になった

『…ごちそうさま』
「もういいんですか?まだ食べ始めたばかりじゃないですか」
『食欲ないの』

食べ始めた食事にあまり手をつけず部屋に戻った。
その際もアンセム様は書類に心を奪われたままだ
いい加減女々しく思い、扉を荒々しく閉めた。

『……もう、疲れた』

部屋に飾られた写真を見つめ、それを伏せた。
部屋を抜け出し、廊下を踏み締める。

この時間は研究の時間だ。城内は静まり返っていた。鉄の塊を押し開け、外に出ると冷えた風が体から熱を奪う

『…早く行こ…』

扉を閉め、街へと足を運ぶ。何度も歩き慣れた街が、今日は知らない街に見えた。
不意に食材屋の主から声をかけられ歩みを止める

「ナマエちゃん、買い物かい?」
『…ううん、出掛けるの』
「こんな時間にかい」
『うん』
「何処へ?」
『……とおいところ』

そう呟いて店前に並ぶパンを一つ取り、支払いを済ませる。

「寒いところかい?暖かいところかい?」
『…分からない。暖かいのを望むけど…寒い所かも…しれないね』
「なら、これを持って行きな」

渡されたのは赤いマフラー。アンセム様と同じ、赤いマフラーだった

『…ありがとう…』
「いいんだよ、気をつけて行ってきなさい。帰りはいつになるんだい」
『……分からない』
「ナマエちゃん?」
『…さよなら、おじさん』

マフラーを首に巻いて、街を背にして歩く

『…あの人は…冷たいのに、これは暖かい…』

マフラーを握り締めて城を見上げるように振り返り、駅へと足を運ぶ

『…来るわけない、か』

人込みに紛れて列車に乗り、人離れた席に座る。育った街を見ながら
ぱたり。
一筋の涙を零し列車が大きな汽笛を鳴らす。
求めた愛は応える事はなく、列車に運ばれるまま私は全ての思い出を捨てた

(…この愛は重すぎましたか、アンセムさま)


END

何だこれ。いや、研究にかまいっぱなしの賢者とすれ違いの恋を書きたかったのにおかしくなった無駄に長くなった(笑)


07.09.25


イトハン