仕事が終わると暗い道を歩いて燭宿る家に、彼女は帰って来る。

『…ただいまー』
「お帰り、お疲れ。すぐに食事の支度をする」
『うん…』

心無しか、物凄く疲れている顔をしてる気がする。

「…眠いのか?疲れた目をしている」
『んー…少し、だけ…眠いけど…大丈夫。ご飯…』

ふらりふらりと歩き、椅子になだれ込む様に座る。
俺は苦笑しながら食事の支度に取り掛かる

「どうぞ、お嬢さん」
『…ありがとう…』
「いただきます」
『いただき…ます。』

そう言うものの、箸を持つ手がおぼついていて、行儀悪い、とデコピンで額を弾く。
しかしナマエは頭で船を漕いでは、はっ、と覚醒し、また漕いでは起きる。

「ナマエ、食べるのか、寝るのか?」
『食べて…寝る…』
「そうか、じゃあちゃんと口を動かして」
『うん…ルク』
「何だ?」

最後の一口の野菜炒めをむしゃむしゃと食べながらナマエの視線がこちらを捕らえる。
黒い瞳は底知れず、ついつい見入ってしまう。

「ナマエ…?」
『いつも、ありが…と…』

その一言を発し終えたと同時にナマエの姿がズレる。
そしてゴン、と鈍い音。
一瞬何が起こったのか分からず、テーブルに突っ伏すナマエに、呆気に取られた。

「お、おい、ナマエ…?」
『すー…』
「……寝て、る」

仕方なしにナマエを抱き上げて寝室へ運ぶ。
その時、ふと感じたのは

「…軽い…」

以前と比べ、また痩せたようだ。こうも軽いと太らさねばと思ってしまう。本人は余計な事するなと言うが。
抱き上げていたナマエをベッドに横たわらせて布団をかける。

「……」

ありがとう、の意味が今だに分からずナマエの髪の毛を梳きながらポツリと呟く。

「ありがとう、か…」

何の感謝か分からない。だが、俺もナマエには感謝の言葉がたくさんあるし、労りの言葉もたくさんある。その台詞は、俺が先に言うべきだったはずだ
学業や仕事までして、疲れているのに、俺の為にここに会いに来て。
そんなナマエが愛しくて堪らない。
ありがとう、と言う前に何かに邪魔をされたり。

「よく寝る…」

パーマのかかった髪の毛をちょいちょいと弄ったり、頬っぺや二の腕をむにむに触ったり、鼻を摘んでみるが起きる気配がなかったので諦めた。

「おやすみ、ナマエ。」

気持ちよさそうに寝るナマエの頬に、軽くキスを落とし、部屋を後にする。
扉が閉まる一瞬、ナマエの頬が緩んだ気がした――


(月が満ちる夜に彼女を思って眠る)


END

ルクさんがよきパパン状態(笑)
会話少なっ


07.11.02


イトハン