美しいものには刺がある。それはよく言われ、聞き慣れた言葉


ぱさり。


「うぷっ!?」

顔に当たる柔らかい何か。そして香る甘ったるい匂い。
閉じてた瞼を開ければ色とりどりの花が姿を現した

『お兄ぃさん、こんな所でサーボリかな?』
「ナマエ…」
『危ないよドラグーン、木の上で寝てたら』
「…お前もだろ」

上に生えた幹に足をかけ、逆さまの状態からクルリと器用に、隣の幹に降り立つ

『よく木の上で寝れるね』
「下で寝るとアサシンとクリーパーが五月蝿いからな。昼寝する度に突進されたら身が持たん」
『いいじゃん、構って欲しいんだよあの子達』

ナマエはくすくすと笑い声を零し、抱えた花束を愛おしそうに見つめて匂いを嗅ぐように鼻を寄せた。

「その花は?」
『あ、任務から帰って来たらマールーシャ様から貰ったの。綺麗でしょう?』
「…ああ」
『ナイト様も、おひとつどぉぞ』

ガーベラに軽く口付けて、さわりと耳にかけられる

「耳にか」
『可愛いよ』
「…嬉しくない」
『じゃあ胸に着飾る?あ、でも胸ポケットないねー…』

花束からまた一輪掬い取り、衣服の一部、襟元のベルト部分にかけられる

『うーん…不格好』
「悪かったな」

飾られた花を取り、ナマエに返す。
ナマエはただにこりと頬笑んで器用に座っていた木の幹から飛び降りる。抱えていた花束はふわりと宙を舞った
その姿はまるで神の使いが降り立ったような姿に見え、その姿にドラグーンは錯覚を起こした。

「…部屋に戻るのか」
『うん、花達にね、早くお水あげたいし、スナイパー達にもあげたいなぁって。あ、談話室にも飾ろうかな』
「………」
『あの部屋寂しいから…他には…ま、歩きながらでいいかな。じゃあねドラグーン』

片手で花束を抱え直し、開いた片手で手を振る。
ドラグーンは無言のまま木から降り立ち、ナマエに近づいた

『ん?』
「…手伝おう」
『いいの?眠るんじゃないの』
「いい。」
『……?ならお願いします』

ふわりと香る匂いにドラグーンは心地良さを感じた。
花の匂いではない、ナマエと言う人物そのものの香り

「香水つけてるのか?」
『ううん?』
「いい香りだ」
『花?いい匂いだよね』
「お前だ」
『え、あ…、ありがと』

頬をほんのり赤く染め、ナマエは花束に顔を埋めた

『ドラグーンて本当ナイト様だよね』
「ん?」
『何も?てっ!』

急に顔を歪め、ナマエは手を引っ込めた

「どうした?」
『ん、薔薇、まだ刺残ってたみたい』
「削ぎ落としてなかったのか?」
『ううん、マールーシャ様綺麗に削ぎ落としてくれたよ、多分刺って言うより葉っぱかな?』
「大丈夫か?」
『ん、ハンカチ取るから持っててくれる?』

すい、と渡された花束。
ナマエの指にぷくりと溢れ出た赤い雫

「勿体ない」
『えっ?』

気付けば指に舌を絡めていた。
ただの錆びた味しかしないそれは非道く甘美なものに感じた

『ドラグっ、ン…!』
「…ん?」
『…汚いって』
「そうか?」
『花…落ちちゃったよ…』
「いい」
『よくな』
「ナマエ」

指を絡めれば小さく身震いするナマエに苦笑する

『かっ…顔、近い…』
「今は、この目の前の花を摘むのに忙しい」
『な、何それ』
「花は摘む為にある」

刺で囲った花は困ったように照れて笑い、小さな声で囁いた

『枯らさないでね』

きらりと光る瞳。

「……もちろん」

(魔性の薔薇には
毎日水を与えねば。)



END

お約束。ドラりんが気障すぎてキモイ

07.12.24


イトハン