彼女は小さい。必死に手を伸ばす姿に思わず笑いそうだった

『ザルディンーあれ取ってぇ』
「……」

騒がしい中、俺一人浮いた存在の様な気がするのは気の所為だろうか

「ナマエ」
『はい』
「…帰っていいか」
『駄目』

きっぱり断られ、小さく溜息を吐く
そう、周りは皆、女だらけで、ある目的の為にこの敷地は女だけで埋め尽くされていた。
その中に一人混じっている自分は明らかに場違いだった

『だってザルディンいないと』
「荷物持ちとかだろ」
『違ってないけどね』
「……」

再びチョコの山を見出したナマエ。諦めて隣で立ち尽くす
そう、今日はバレンタインだ。チョコに群がる女達はまるで蟻の様に見えて仕方がない

「……」

と言う事はナマエも蟻か、と考えながらわざわざ高い所に並べられたチョコに手を伸ばしていた

「おい、自分の身長考えて手を伸ばせ」
『ふふ、ありがとう。ごめんねー』
「悪いと思っているなら早く終わらせてくれ…」

カゴに入ったチョコをかかげ、群れから抜け出すと近くのベンチに腰掛ける

「…よく買うな…」

それぞれ包みの違うチョコレート達に目をやり、ナマエに視線をやる
ぴょこぴょこと跳びはねている姿が伺え、思わず苦笑いする

「小さいな本当…」

お目当てのものを手に入れたのか満足そうな顔をして戻ってきた

『大漁大漁!』
「よかったな」
『うん』
「もういいのか」
『うん、払ってくる』

レジまで持って行くとお財布お財布と言いながらナマエが鞄を探る
その間に支払っているとナマエが目を見開いた

「何だ?」
『え、や、私…払うのに』
「利子つけて返してくれればいいさ」
『ひっ!!マジっすか』
「冗談だ。ほら、行くぞ」

歩き出すと、するりと絡められたそれに視線を移す

「…何だ?珍しい」
『や、ちょっと』
「?」

珍しくナマエから繋がれた手。ぎゅうと握られ、そのまま店を出る

『うう、くそー』
「まだ買い足りないのか」
『違う…』
「じゃあ何なんだ」
『…みんなザルディンの事見てたの』
「は?」

冷える中歩きながらマフラーを直し、ナマエの乱れたマフラーも整える

「そりゃああんな、女だらけの場所に居たら」
『違うの、私の斜め向かいに居た人がザルディンの事カッコイイって言っててチョコ渡したいとか言ってたの』
「それは有り難い」
『だから私慌ててザルディンの傍に戻ったの』

成程、貝殻繋ぎの訳はそういう事か。繋いだ手に力が篭る
あまりにも可愛いらしい理由なのでいっそここで愛でたいと思いながらも平常心を装った。

「別に俺は」
『ん?』
「お前だけしか見れんしな」
『……ッ』
「暑いのか?顔赤いぞ」
『ちっ、違いますッ』

むくれたナマエを宥める様に、袋に入ったチョコを掲げた

「これあいつらの分か?」
『あ、うん。ザルディンはどんなのがいい?』
「義理か」
『違うよ!ちゃんと他に用意してる!』
「まだあるのか」
『部屋にね』

嬉しそうに小さな包みを開け口にそれを放り込むナマエの耳元に顔を近付けた

「俺は…お前がいい」
『はッ!?ひゃあ!!』

耳を軽く舐めると、ナマエは勢い良く離れた

『な、何す…!』
「お前が何がいい、と言ったから」
『チョコよチョコ!』
「部屋にあるんだろ?」
『部屋にあ……って私はチョコじゃないですからッ』
「何だ、残念だな」

ちっとも残念じゃなさそうに呟く

(けれど、今日付き合わせた代価は…頂くぞ?)
(へ、変態ッ)
(何とでも)


END

間に合わなかった…!いやね、ザル様はきっと文句言わずに付き合ってくれるんじゃないかなとか思ったり。まぁ原作とかーなーり掛け離れてますね。フリーですのでご自由にお持ち帰りくだされ!

08.2.14



イトハン